Eno.356 舟渡しのスティラムス

【第6章】天へと舞う華やかな焔 飛び立つ時は近付き

嵐の日に外へ出向くのは正直怖かった…

嵐はやがて収まり、この島は穏やかな気候へとなった。
話に出ていた船へと出向いてみたが、
見つかった物品からして、どうやら海賊達が使っていた船だった様子。
内部は随分と朽ちており、足を踏み外さぬよう用心して進む必要があったな。
まぁ…結局足踏み外して落ちたんだけど…あっぶなかったわ

…この島に、幾つもの花火が天へと舞い上った。
島の者達で話し合い、救助か、はたまた個々の願いか――――
そんな思いをを込め、何発も、何発も。
華々しく、しかし優しく島を照らす焔が、天空を飾ったのだ。
その光景は…何とも美しく、賑やかで、楽し気で、温かく。
この光景、この思い出は、間違いなく我が魂に深く刻まれるであろう。
見知った地で行われる祭事の時でも目にするこんな光景を…
まさか流れ着いた未知なる島で見られるとは…世の中分からぬ物よ。

…そういえば、だ。
吾輩が岩場へと出向いた際…ついに契約を果たしたのだ。

———————熱き戦いを繰り広げるであろう遺伝子を持つ召喚獣アヒルと。

迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファと名を与えたその召喚獣アヒルと共に…
吾輩はついに熱き戦いの舞台へと降り立ったのだ。
———そう、アヒルバトルという舞台に。

今までは見ている身だったこの戦いへいざ足を踏み入れてみると…
魂が疼き、武者震いが止まらなかった。しかも相手は猛者揃いなのもあり、尚更だ。
様子を窺いつつ吾輩の迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファは先も読めぬ波状攻撃———
その名も乱波連弾ストレンジ・ウェイヴを放ち、周りを追い詰めて行った。
しかし、流石は集まった猛者達だった。そう簡単には屈さなかった。
マッドネス・エンジェルのキュートスパイク・スピンが容赦なく周囲に奇襲を仕掛け…
吾輩の迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファも戦場の端へと追いやられてしまった。
このままではまずいと感じ、なんとか迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファに態勢を立て直してもらったが…時は既に遅かった。
キイロマンによる捨て身の奥義…アイス・キイロマンタイフーンが更に周囲への追い打ちとなったのだ。
これには迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファも耐える事が叶わず…戦場の外へと弾き出されてしまった。
…勝負に敗北した事はやはり悔しくはあったが…不思議と清々しい気持ちではあった。
そうか…これがアヒルバトルなのだな…!
吾輩も迅翼の凶鳥シュトゥルム・アングライファと共に精進するとしよう。

……あれやこれやと騒いでいるうちに、打ち上げた花火の影響もあってか、
汽笛の様な音が遠くから聞こえた気がする。此方に気付き向かって来ているのだろうか。
だとすれば…間もなく、脱出の時が近付いている。
船が近付くその時まで、世話になったこの島でどう過ごすか考えて行きたいものだ。