Eno.396 最寄近場

【遭難記14】



脱出の手筈は整ったが、汽笛の音も聞こえて来た。
来るのがおせえ~~~!!全部準備できてる~~~!!

とはいえ、やはり救助手段が複数あるのはいいことだ。
あの座礁した難破船を見るに、来てくれた救助船が同じ道を辿らないとは言い切れないし。
もちろん俺達だってこの船を無事航海させられるかは実際にやってみなくちゃ分からない。
だからこそ、助かる手段は複数あると安心できる。
備えあれば憂いなし、転ばぬ先の二本の杖だ。いや二本あったら歩きにくいかも?
食事も水もなんとかなる、残りはウィニングラン。
まあここから天候がブチ荒れたらその限りではないが、おそらく大丈夫だろう。

自宅のベッドが恋しくなってきた。
そろそろジャンクフードとか食いたい。
ヤニもいい加減切れてる。
そりゃ安定しているとはいえども、俺も現代日本の生活に慣れ切った現代人ですから。
これが二週間三週間と続いていたら音を上げていたかもしれない。

ただ、この遭難生活から離れがたい連中もいるようだった。
今までの生活より無人島の方に価値を見出すような暮らしが俺には想像できないが。
せめて帰ったあとも幸せに生きてくれることを願うばかりだ。

金の絡まないこの暮らしに、結局相貌失認は働いたままだったけれど。
全員が何事もなく無事に帰れますように……なんて、祈るくらいは別にいいよな。