Eno.48 ニライカナイ

8:活動記録/■■■■

記入者:Niraicanai

僅かながら、潮が上がってきている。そろそろ、終わりの時が近いのだろう。

 ……少しだけ、もう少しだけ………いや、ずっとこの時間が続いて欲しいと思うのは……我儘なんだろうな。

 一瞬でも憎悪を忘れられるようなこの時間を手放すのが、惜しい。


 でも、目的を履き違えちゃなんない。最優先すべきは全員を生還させることだ。俺含めて。停滞の箱庭に留まって、革新を続ける訳にはいかないんだ。


 ……何より炎は消えていない。皆んなが何を抱えてるかはわからないけどさ、
この炎に巻き込む訳にはいかない──だなんて、まあ、ちょっと格好つけか。


 あー、でも。帰ったら報告書整えることになりそうでヤダな……………



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 「ニライが海に落ちて行方不明」って話を聞いたのは数日前のことだ。
 レギンレイヴの率いるヴァルキュリア隊による、太陽魚ソーラーフィッシュの大量出現の確認と、『遺構』の調査のために、海辺の村に行っていた。
 そして海岸を調査中に、突如現れた魔物────嵐大狼ストームフェンリルに襲われ、海に落ちたのだと。


 フェンリルはレギン達が討伐した。
 けど、ニライは見つかっていない。見つかったのは、得物である銃剣ガンブレードだけだった。

「───だから、僕たちが探しに行くって言ってるんだ……!」

「いくらお前でもダメだ、カルナ。この時期は海は荒れやすく、太陽魚ソーラーフィッシュの大量出現もあって危険だ」

「対策くらいしていく。責任もとる。だから」

「ダメだ。……少なくとも天気がおさまるまであと1週間は待て。死んでいたらその時はその時だ」

「レギンレイヴのわからず屋!手遅れで死んでたらどうするの……?!」

「わからず屋で結構だ。……死体さえあれば、その時はその時だな」

「もういい、勝手に行く!」

「ちょ、待て、カルナ!」

 僕はそのまま宿舎を飛び出して、駆け出した。


 結界の境目あたりまで来た時、後ろから声がした。

「っ……おーーい!!カルナ!!」 

「……イーハ。止めても無駄だって」

 イーハトーヴ・アウロラバアル。ニライの同期で、僕も含めて3人でよく馬鹿やる仲。人間で18歳。
 ニライも含めてだけど、一応僕のが上司にあたる。けど、そんなの関係なくて。何より、どっちかというとイーハはヘラクの隊なんだけど。

「止めに来たんじゃないって!俺も手伝わせろって言いに来たってトコ!」

「えっ。レギンかヘラクの差し金じゃないんだ。意外」

「傷つくなあ?!……さすがに心配なんだよ。ニライは簡単に死ぬようなタマじゃないのはそうだけどさ」

「……同行許可。イーハの探知と嵐魔法は、間違いなく役に立つし」

「同行許可感謝しますよっと………で、どうやって行くん?」

「飛ぶ」 「えっ」

 浮遊槍を起動して、ヴァサディの方に飛び乗る。
 イーハはシャクティの方ですくい上げて、掴ませる。


「行くよ」

そのまま、高速射出の要領で射ちだした。

イーハの悲鳴は聞かなかったことにした。


………………
………