Eno.280 超散布意思

Day 6 am 10:00



鳥散布種子は困惑した。

自らの半分が突如として剥離し渡り鳥になったこと。

そしてその混乱に乗じるが如く、己の根幹を成していた要素が煙のように消失したことに。


鳥散布種子は自然発生した概念ではない。

そもそもは"それ"を容れる為のカゴとして、"彼のもの"によって製造されたのだ。

大群おおぜいの鳥たちは無秩序な意志に紛らせて"それ"の声を封じる仕組みであった。

"それ"の声は多くのものを惹き付けてしまうから。

種子を散布する概念という表向きの役割を背負いながら、その実際は因子を閉じ込めるものでしかなかったのだ。




ああ。

けれど、"それ"はもういなくなってしまった。

存在意義が無くなってしまった。

ああ、ああ。

最早自らには何も残ってはいない。







否。








散布だ。

まだ散布をしていない。

散布体は己そのもの。

最後に一度だけ、大輪の花を咲かせるのだ。