Day 6 am 10:00
鳥散布種子は困惑した。
自らの半分が突如として剥離したこと。
そしてその混乱に乗じるが如く、己の根幹を成していた要素が煙のように消失したことに。
鳥散布種子は自然発生した概念ではない。
そもそもは"それ"を容れる為のカゴとして、"彼のもの"によって製造されたのだ。
大群の鳥たちは無秩序な意志に紛らせて"それ"の声を封じる仕組みであった。
"それ"の声は多くのものを惹き付けてしまうから。
種子を散布する概念という表向きの役割を背負いながら、その実際は因子を閉じ込めるものでしかなかったのだ。
ああ。
けれど、"それ"はもういなくなってしまった。
存在意義が無くなってしまった。
ああ、ああ。
最早自らには何も残ってはいない。
否。
散布だ。
まだ散布をしていない。
散布体は己そのもの。
最後に一度だけ、大輪の花を咲かせるのだ。