Eno.16 ミオソティス

【12 美しく咲け、青の華】

 
 昨日の朝。
 クライルが漂流船で見つけた大砲を磨いて、
 空に綺麗な華を咲かせた。

 こんな華もあるんだなと思った僕は、
 火薬を手にして、同じものを作ろうとした。

 夕。弓矢を手に狩りに行った。
 成果はさんざんだ。
 落ち込んでいたら、
 ニライが狩りのコツを教えてくれた。

 夜。僕のせいで、
 話題が暗い方に行きそうになった。
 だから僕は、作っていた花火を打ち上げた。

 フロルの家に生まれたくせ、
 碌に花魔法の使えない僕だけれど。
 空の華なら、咲かせることが出来たんだ。

 ハーデンベルギアの華を模したそれ。
 花の意味は、運命的な出会い、
 奇跡的な再会、幸福が舞い込む。

「……僕なりに、祈りを込めたんだ」



 またみんなに会えますように。
 僕はこの島での刹那の日々を、
 ずっとずっと忘れないから。

 深夜。また狩りに行ってみた。
 ニライの教えてくれた通りにやってみたら、
 最初は外したけれど、次でイノシシを獲れた。
 ……僕はちゃんと前に進めてる、頑張れてるよ。

 その後でニライが、カレーライスという
 とっても美味しい料理をご馳走してくれた。
 あんなご馳走を、漂流中に食べられるなんて!
 ……幸せだったよ、これまででいちばん。

  ◇

 汽笛の音が聞こえた。助けが来るのかも知れない。
 そしたらみんなともお別れなんだ。
 リシアンサスとクライルは、
 この先も一緒だけれど。

「……寂しい、な」



 どうか終わらないで、この日々よ。
 そんなことあり得ないのに、
 願わずにはいられないんだ。