Eno.53 ノア・イトゥドノット

19:処刑人と欲望神と[ノア,リシアンサス]

『念のためだ
旗と…後、アレで船に更なる合図を出すか』


「やぁ、精が出るね」


手を緩く振りながら歩み寄る神

『どうも…早く帰らねばならぬからな』


「そっかぁ…其れって"仕事をしている時だけ何も考えずに済むからかい?"


神は問い掛ける
其れは此方の考えを見透かしているかのよう
否、実際に考え処か全てを見透かしているのだろう
確信めいた問いからそれが伺える

『…だとしたら何だというのだ?』


「んー、何って事はないさ?
…あー、でも」


「お前は最後の人らしさを捨て、ひとでなしの道に進むつもりなのかなって
其処は気になったかな」


ぎょろり、と目に湛えた星は消え
向けられたのは吸い込まれそうな程の黒洞洞の瞳
嗚呼、やはりコイツは神だ……
ヤツに似て関わると面倒で一番"大嫌い"なタイプの---

『…その問いに何の意味が有るか分からないがお前のその問いに答えるならば』


『人を捨てるのではない
"真っ当に生きられないなら私はとっくに化け物だった"
其れだけの話だろう?』


神の問いに対する解はこれだった
同時に解を口にし己の中からストンと何かが腑に落ちた気がした
その後、語る事はないと神から背を向け立ち去った