Eno.321 エヴァンジェリン

城の女王様と神様

世界は彩り豊かな光景に包まれ、
それぞれが得意とする知識を持つ一族が共存する、そんな穏やかな故郷「アクアリア」で暮らす少女がいた。


「エヴァンジェリン」


彼女は両親や多くの兄たちに愛され、友人や親しい近所の人々に囲まれ、幸せに満ちた日々を過ごしていた。


「アクアリア」には多彩な才能が集まり、
料理から医学、音楽、戦術に至るまで、様々な分野で輝く一族が協力し合って暮らしていた。

彼女自身も建築技術に秀でた一族の末っ子であり、
両親の期待を背負い、そして唯一の女の子として可愛がられていた。
家族や友人たちとの楽しい時間は、彼女にとって宝物であった。

城を作りたいことを伝えて設計図を作り、
友は大好きな絵で城を描いて、
もう一人の友達は城に住んでいそうな女王様の衣装を作り、
また一人は城に潜入する悪い人を退治する罠や魔道具を作る、など

想像し友人たちと共にそれを現実のものとする喜びに満ちた日々を送っていた。



しかし、彼女の心に暗雲が立ちこめる。


友人や兄たちが故郷を離れて働くことになったのだ。
大好きな人たちと毎日を過ごすことが幸せな彼女は幼いが故に

孤独と不安に包まれ、拒否し、そして逃げ出してしまった。



逃げ出した先の森の中、友人との遊び場で彼女は一人で泣きながらいた。

その時、突如として知らない男性の声が彼女の耳に届いたのだ。

「そんなに泣いてどうしたんだい?可愛らしい顔がトマトの様だ。」

茶化すように、しかし、優しく包み込むような大人の男性の声。
彼女は見えないながらも聞こえる声に最初は困惑していたが、話すうちにだんだんと楽しくなっていった。

そうして、夢の話をしたりするようになり、

突然、「キミの願いはあるかい?」と、その声は最初の時のように優しく囁いた。



困惑するも、彼女は心の底から願った。

「家族や友人たちとこの故郷で幸せに過ごしたい。」


男性の声は「もちろん、君の願いを叶えよう」と言い、

同時に泣いて走り、緊張もほぐれ疲れ果てた彼女はだんだん意識を失ってしまった。


しかし、その願いは予想外の結末をもたらすことになった。





目を覚ますと、彼女を取り巻く故郷は悲劇の渦に呑み込まれていた。

血に染まり、焼けた臭いが漂い、悲鳴が響き渡る中、彼女は混乱した。



「なぜ?どうして?」彼女は困惑の中で呟く。


先祖、両親が築き上げた建物が、全てが、燃えている。


すると、耳に優しい男性の声が響いた。



「求めていたんだろ?家族や友達が故郷から出てしまわないように。

ああ、そう、彼らの優秀な技術も全部君に上げてしまおう!

友達や家族の技術さえ奪ってしまえば外に出ることもない!

キミ一人で全部成り立ってしまうんだから!

ああでも彼らは故郷を出てしまうね!

じゃあ殺してしまおう!外に出れないように手足をもぎ取って!

ぬいぐるみのように飾ってしまおう君のお城に!幼いエヴァンジェリン!

愛しているよ、可愛い子供」




その言葉に、悪いことをやってしまった恐怖を覚えた。


彼女は自分の願いがこんな結果を招くなんて考えてもいなかった。




「違う!私、こんなことを求めてたんじゃない!」



エヴァンジェリンは絶望の叫びを上げた。








…あれから何十年経っただろうか…エヴァンジェリンは、ぐっすり眠っている。


意識を失う前に少女は手を組んで祈った。


「罪人の私はここで永遠に生きることをお約束します。

ですから、
「島を出て自由に生き生きと生活する、幸せな夢を見たい」

神様、夢を見るだけ、赦してください…」


いいだろう、いいだろう、愚かで可愛いエヴァンジェリン。

ゆっくり休むといい。






おや、寝てしまったのか?



大事なことを言うのを忘れていたよ!


自由を得た幸せな夢を見たいと願うなら、
ここを離れようとする強い意志を代償に貰っていかないとね。


そうそう、君の大切な夢も、美味しくいただこうじゃないか。


夢は目が覚めてしまえば、忘れるものさ。」