Eno.528 わしししょう

昔話/ とべないわしでただのわし

ぼろぼろのわしが、草むらでうずくまっています。

そのわしは、飛ぶのがへたくそでした。
ぜんぜんまったく、空を飛べませんでした。

地面をよたよたと歩いて、おちている木の実や、
ほかの動物の食べのこしをつついて、生きながらえていました。
ほかの動物におそわれても、空へ逃げることもかないません。

そんなわしでしたから、ぼろぼろになっているのです。
傷ついた体を動かして、どうにか草むらへかくれて。
そこで、おわりです。そのはずでした。

「おや、死にかけの鳥じゃ。実験体に丁度良いの」

わしの頭の上から、つめたい声がふります。
わしはもう動けないし、人間の言葉もわかりません。

わしにわかるのは、じぶんに近づくだれかが、
やさしく、そっと、じぶんの体を持ちあげる感触だけでした。


「そしてワシは改造手術を受け、
 今のワシになったのじゃ!」


     しゃべるわしができるまで
         ~ 完 ~


「今ごろ師匠は、空で楽しくやっているかのぅ」