Eno.201 《ヨダカ》 宇

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世界から隔離されたかのように、
私が事故を起こしてから周りの色が霞んで私の生活は生気を失っていた。
あの頃のように星を追いかけていたとは思えない程に弱々しく脆い。

寝てはご飯を食べ、最低限の生命維持をし続ける生活。
私自身、そんな私を見て嘆いた。

「やぁ」



ふと、そんな声が聞こえ窓を見る。
そこにいたのは、一人の少年。
でも、そこから見えている時点で、異常であると認識する。
私がいるのは、3階建ての病院の3階病室であり、普通であればそこから人間が見えるはず無いのだから。

「そんなに警戒しないでよ。
 僕はただ、君の願いを叶えにきただけの存在なんだから」



それを聞き、私は思わず身を乗り出しそうになる。

「ふふっ、嘘だと言わずに君は食い入るんだね。
 流石、どこまでも星を追いかけた人だ」



一体君は……、私は何をすればいい。
そう、少年に震えた声でそう質問する。

「僕かい?そうだなぁ……端的に言えば、『聖杯』かな?
 そして、君はヒュマモンになるんだ」



私が、ヒュマモンに?
と声を上げると、少年は立て続けにヒュマモンに関する真実を語った。
ヒュマモンは人体実験で変貌させられた人間であることを主に私は沢山の真実を知った。

「ただ、君は僕からされることにより、自分の記憶を消さずに変貌させられる。
 その真実を喋られないようにとかそういった制限もない。
 自らのルーツを忘れずに、その人間としての生を辞めることになる。
 あくまで自由に、僕はあんな研究所の人間じゃないからね」



それでも、また星を追いかけれるのだとしたら……
私は人間を辞めてでも星を追いかけたい。
あの日々を……取り戻したい。

私の心情を吐き出して、少年はニヤリと笑った。

「どこまでも、星を追いかける事に固執する君の人生。
 何が、そうさせたんだい?」



よく知っている。
子供の頃から抱き続けていた夢。 叶うことは有り得ないとされるがそれでも離さずにいた夢。

『私は……星になりたかった』

「あぁ、本当に君はとても真っ直ぐで壊れている!
 だから、そんな窮屈な姿を捨てて君らしくしてあげよう!」



少年は高らかに声をあげて、指を鳴らす。
その時、私の全身に激痛が走り、弱々しい身体だった私は気を失っていく。
薄れていく意識の中で、あの少年の言葉がしっかりと脳裏に焼き付いた。

「そんな壊れた君にピッタリな名前を与えよう。
 かの物語で君と同じように星を追いかけて彼方に飛び立ち星となった存在の名前を!

 さようなら、宇之井 珊瑚ウノイ サンゴ
 おはよう、"ヨダカ"





本日未明、●●病院から入院していた患者1名が行方不明となり、
警察は行方を捜索、未だに手かがりすらないとのことだった。

そんな状況など、私は気にせずに泳ぐように空を飛び、見上げる。
視線の先にあったのは、届かんばかりに輝き続ける星の数々。
どこまでも、どこまでも続く光。
星を追いかける旅は……再開したのだ。

私には、きっと人との絆の繋がりは存在し得ないのだろう。
その代わりに私が持っている繋がりはきっと……