Eno.441 クリー

墓守と保管庫

21世紀において、「保管庫」の在り方と価値は大きく見直されることになった。

20世紀後半から各国でのテロ行為が活発化し、それはこのブリテンも例外ではない。
あるいはブリテンを脅かす脅威こそが、今日テロに用いられる手段の先駆けとなったと言って過言ではない。

それだけであれば、協会も動く必要は無かったかもしれない。
単なるテロであれば、それは我々魔術師の仕事ではない。
少なくともあの事件までは、我々が関わるべきものではなかったはずだった。

寄生樹。
スコットランドで初めて発見された異物。

およそ一般の人間が知りうる範疇を越えた異物は、国内でも秘密裏に処理される。
妖精は人々が御伽噺として語るものとして流布されるべきものであり、吸血鬼は娯楽として消費されるべきものである。
そして其もまた同様に、人々が認識する間もなく処理されるべきであった。

故にこれは失態である。
スコットランドで発見されたものが、あろうことかテロ組織の手に渡っている。
世界で同時多発的に発生しているのであれば、それはブリテンの手に負える範疇ではないだろう。
だが一方で、持ち出されたであろう痕跡を、我々は突き止めた。

これを受けて、異物の処遇・保管について検討が必要となったのは言うまでもない。
かねてより「人ではない化け物が管理するというのは問題ではないか?」という意見はあった。
しかしこの事件を経て、「欲を持ち忠誠を誓わない人間が管理するのは問題ではないか?」という意見が提示されるに至った。

だからこそ、我々には彼らが必要である。
かの二匹の妖犬が必要である。
今後一層の警備体制強化を図るにあたって、管理者と更なる協議が必要となるのは間違いないであろう。

英国王立魔術師協会 Kerria Elston