Eno.578 月宮炳音

漂流前の話

かの研究成果をみて数か月、まともな食事が喉を通らない。

対象に喰わせた『曰くつき』、その試作品知れば食欲を失う代物たち。
更には"変化していく映像"が頭にこびりついていた。外見と人格が被験者へ『溶け』ゆき、上塗りされていった様子。


「は、栄養バー あほくさと思ってたのにな。へへは。」
かの《民族考古学会》主導で動く研究で、わたしのメンタルやヘルスはボロボロっぽい。
某グループの遺物技術に関わったばかりにこんな目にあったんだろうな。

技術の再現、転用、医薬品の製造。
失敗品や廃棄物これらも狂気の曰く付きの処分まで。


なけなしの休憩時間を使い、外出をする。
繁華街のはずれにある公衆電話へ。

スマホ検索して調べ、とある配信事務所の番号を入力した。

「最近失踪したと噂のバーチャル配信者の~~。」
"彼女"はこの実験に巻き込まれ被験体だ。

「たしかですね~、ドイツ人が経営している変わったラーメン屋でみたことがあるんです!
 かなり駐車場が広くて、ヘンテコ料理なので記憶に残ってました。」
この偽装店舗の地下に実験施設があるのだ。

加えて、本家から関与注意とされた組織へ情報が渡るように情報を添える。
『ブラック・ブラック・ネットワーク』なれば大抵は解決されよう。

「あはは、名乗るものでもないです~。"見つかると"いいですね。」
鬼族十二家の看板に傷をつけないように、匿名で通報をしなければ。



あとは、『転身面』に関わるマニュアルを地下倉庫に挟み込めば十分だろう。

狂気を飼い、飼われる『月宮』。
その血脈にある私が関与しているとて、一般人を巻き込むのは堪えるものがある。
本家を怒らせないよう、必要な身辺整理をしてバカンスにでも行ってみようか。