Eno.112 【空繋ぐ機装魔導師】七曜

新五章【病殺しの魔女】

 気が付いたら、見知らぬ街にいた

 母さんから逃げるには丁度いいか。なんて思ったが
 逃げるような暮らしも長く続かなかった

 かつて仲良くなった料理人の女の子がボクを探しに来た

 どうしてしまったんだ。と聞かれた
 ボクはどうもしない。ただ大切を守りたかっただけ
 また何も出来ずに全て奪われるのが嫌だった
 思い出が物騙りになるのが耐えられなかった
 それだけなんだ

 でもそれ以上に、新月じゃないと言われたのが
 当たり前の事なのに、すごく寂しかった


 女の子からプリンを貰った
 甘い物は好きだ。甘い物を食べてると昔の事を思い出せるから

 かつて英雄だった頃にみんなで食べた甘味を
 雪のように降り積もった砂糖菓子を

 幸せだった、もう戻らない日々に少しだけ帰れる気がするから

 母さんに探すよう頼まれたのかと聞いたらあっさりと認めた
 正直母さんには会いたくなかったし、帰りたくなかった

 ずっと側にいる。なんて約束を破ってまでして堕ちて
 何も成せず、事態だけ悪化させた

 どうせなぜ頼らなかったのかと説教するに違いない
 それならもうずっと帰らなくていい。ずっと一人で構わない

 ……と言う事を、ありのままに女の子に言ったら普通に怒られた
 し、チャーハンをご馳走になった

 食べた後は涙が止まらなかった
 しばらく泣いてないのかと聞かれて、ずっと泣いてた事を思い出して
 そしたら蓋してた記憶が溢れるように
 塞がっていた傷が開き膿が出るように、涙が激しさを増した

 それから泣き疲れて、眠って
 結局母さんの所へ連行された

 入った瞬間、「めぐ~」
 なんて、嬉しそうに抱きしめて来て

 全部、崩れた


「みんな、めぐの帰りを待ってるよ。だからさ、一緒に帰ろう?」
 そんな事言うなよ

「運命は壊せないとしても、変える事は出来るんだよ」
 でもボクは変える事すらできなかった。母さんと違って

「大丈夫。みんなで助ける道を考えよう」
 違う、これは殺人鬼への罰なんだ
 ちょっと反省の色を見せただけで償った気になって幸せになって
 そんな奴の幸せなんて、長続きしないとわかってたのに

「これがめぐへの罰だと言うなら、オレも一緒に受けてやる」
 だから、飛鳥のは母さんでも……

「舐めんな。絶対に治すったら治すんだよ」
 ……

「オレは病殺しの魔女だからね」

 そんな満面の笑顔で言われたら、もう

 ……その覚悟と笑顔に、僕は何度救われたんだろう