Eno.67 しろもち

しらなくてもいいこと

 
 とあるところに、病弱な女の子がいました。
 女の子は、描いた絵を実体化させる力を持っていました。
 その力は、絵心師えしんしと呼ばれていました。

 病弱だから、友達がいない。
 寂しがりの女の子は、
 おもちみたいな生物を描きました。
 それは実体化し、女の子の良き友達となりました。

  ◇

 けれど運命の女神様は残酷です。
 女の子はこの友達を残し、病死してしまいました。
 残されたおもちは、ひとりで生きていくしかありません。

──咲き爆ぜる熱。



 おもちが名付けたその花火、
 おもちのネーミングではあり得ないもの。
 数多に飛ぶ空の華に惹かれて、
 女の子の魂が刹那だけ、友達に宿ったのでしょうか。

 この漂流の後も、おもちは生き続けます。
 絵筆で描かれた不思議な生物。
 本来なら何処にもいない存在。
 それでも。

おもちは おもち です。



 これまでも、これからも。
 ひとりになっても、生きていくのです。