Eno.256 三巳 千葉

ひとりごちては

「なんか面白そうな気配がしますばいね〜」



これ。よくやってるこの話し方。ばいとかたいを適当に語尾につけるやつ。
このふざけた口調は、俺が考えた一種の処世術だったりする。
自己を紹介する場とかで「博多出身」というレッテルを貼り、
おちゃらけた様子で語尾をこれでもかと強調すれば大抵ウケが取れる。
そして「馬鹿げた奴・ふざけた奴」という印象が相手には残る。
そうしたら、適当に相手の話に相槌を打つための土台は殆ど完成となる。
良くも悪くもない居心地の場所で話題に入っていけるようになるのだ。

自分でも馬鹿けた処世術だなあとは思う。
これ以外の良い方法を思いつけたら是非そっちに乗り換えてみたいが、生憎そんな柔軟な頭は持ち合わせていなかった。
だけど、「真面目なんだね〜」ってへらへらと言われて、逆手に取られるよりはこのやり方の方がずっとマシだとは思う。
見透かされて漬け込まれるよりかはかなり楽なもんだから。


……まあだからといって、
島の生活の中でそんなことを四六時中考えながらやってたわけではないけど。
むしろ逆に何も考えてなかったと言った方が正解である。知らない人が多かったから話し方こそは変えなかったが………普段よりは言いたいことを言っていた。
多分、ここのひとたちにはそんなことしなくても大丈夫だろうなと思ったから。
フレンドリーというか人が良いひとたちしかいないと、思ったから。だと、思う。


……そういえば、
ばい、たいって、たまに同じように言ってくれるひととかもいたな。
いざ言われる身となると、こそばゆいような、嬉しいような、なんだか言葉にはしづらい感じがした。
ただの打算的な思いつきで始めたものだったから、
こういう暖かい意味を持つようになるとは正直思わなかった。
……不思議な感覚だ。全然嫌とかじゃなくて、
ええと…………


「……やっぱり上手く言葉にできんなあ……」