*『エピローグ』
どうにかと水を確保しては飲んで。 いくらかの命を確保しては食べて。ついには脱出の準備を整えて。
――そうして、この島に流れ着いてから八度目の朝日を船の上で迎えて少したった頃。
*ボォ~~~~~~*
自らの船とは異なる大きな汽笛の音が鳴れぱ、
調査船らしきクルーザーが近づいてくる。
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「……これはこれは。
古の煌きを観測したと報告をうけて来てみれば、思わぬ出会いもあるものだ」
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「あれを起動したのは其方らかな。
それにその船……少し話を聞かせてはくれまいか」
ずずいと近寄る船と、甲板から興味深く眺める老人。
敵意はなく、事情を話せばふむと頷く。
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「――ホッホッホ、それはそれは大変であったろう。
何せこの海は『魔の海』じゃ。生きるだけでも苦労は多かったろうに」
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「『絶海領域』――この世界はそう呼ばれておる。
海自らが世界の壁を開き、何れを問わず飲み込み吐き出す。恐ろしい海じゃ」
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「其方らもそれに飲まれたのであろう。災難じゃったのう」
ホッホッホ、と老人は笑う。
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「じゃが、何もそれは悪いことだけではない。
全てを飲み込む海は、全てを内包する海でもある」
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「世界、言葉、文化、魔法、科学……
清も濁も全て飲んだ坩堝じゃからこそ、見れる景色もあるということ」
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「其方らも目の当たりにしただろう?
知らぬ産物を生み出すその手を。 無謀な行動が結果を生み出す様を」
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「それらは全て、かつてこの海に在った文明の産物で――」
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「……いやはや、話しすぎてしまったわい。
今は海が"開いている"からの。このまま船を進めれば、自ずと帰れるはずじゃ」
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「『異なるものは、元いた所へ』。
其方らがそう願えば、元の海へ帰れるじゃろう」
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「其方らの航海に幸運を祈るぞい。ホッホッホ」
老人は再度笑えば、調査船は通り過ぎていく。
窮地に立たされたはずのあなたは、いまこうして船旅をしている。
その過程にはどんなドラマがあったのだろうか?
何を喪い、何を識り、何を得たのか? それらは全て、あなただけが知っている。
――あなたの航海は始まったばかりだ。