はじまり
親愛なる■■■へ
あなたに頼みたいことがあります。
私の炎をこの世界から消して。
薪をくべないで。
この身体を綺麗な棺に納めて、此処ではない処に連れ去って。
■■■のない世界へ。
そして母なる海に投じてください。
私という存在が海に還れるように、どうか祈って。
愛しています。 あなたのヤガー
ヤガーは暗闇の中で一度目を覚ました。
薄く発光する自身の光だけで、この世界の最端を知ることができる。
それくらい────とても狭い場所にいることがわかる。
きっとあの人が棺に入れてくれた。
それが分かっただけで嬉しい。
(ありがとう、■■■)
彼女は頭の中で、愛しいあの人にお礼を言った。
(もしも外の世界がほんとうにあるとしたら、
私は今度こそ■■■を焼かずに済むのかも)
ありえたかもしれない未来を考える。
未練がましいったらない。己を恥じる思いと共に、ヤガーは目を閉じた。
***
次に目が覚めると、棺はなかった。
世界は────視界はどこまでも広く、きっとどれだけ伸びをしても照らしきることができないほどだ。
おそらくその身は棺(だったかもしれないもの……)から投げ出されて、
何も持たぬままそこに在るのだ。
「…………」
ヤガーは落胆した。
心穏やかに暗闇に抱かれていたあの時間が、まるでたった数時間のひと眠りのよう。
────実際のところ、どのくらい寝ていたかは分からない。
だが、たとえ何年、何十年、何百年寝ていても、
安息とはあまりにもあっけないものだ。
それでも悲嘆する言葉は吐きたくはなかった。
「────、……綺麗な海」