Eno.364 リヴィウィエラ

旅立ち

きらきらと、幻想的な光が空を染めている。
少しずつ少しずつ、わたしはその光から遠ざかっていく。
見送るひとの姿がまだ見えるような気がした。
もちろんそれは、きっと幻だったのだろうけれど。

もう一つの船も問題なく出港しただろうか。
ユグとみんなと作ったこの星渡りの船で、わたしはまた旅に出る。
どこに辿り着くのかはわからない。
ひとりぼっちの旅だ。

わたしは大事な種を持っている。
帰るべき場所がある。
種を運ばなければならないのだ。それがわたしの役目だった。
愛しい者と別れ、馴染んだ世界を離れて、文字通り星の海を渡って。
どこにあるのかもわからない、帰るべき場所へと向かっている。

わたしは旅の途中だった。
少し休む為に、たまたま辿り着いた場所がこの海だった。
ずっとずっと昔の記憶が蘇ったのは、この世界に馴染む為に必要だったのだろうか。
わからないけれど、それはわたしにとってとても嬉しいことだった。
楽しくて、嬉しくて、懐かしくて、泣きたくなるほど。
優しい海だった。どうもありがとう。

小さな瓶に詰めたポプリには、まだちゃんとあの島の香りが残っている。
それから、ユグに貰ったお守りをしっかりと胸に抱いて。
多くを持っていくことは出来ないから、この2つと、思い出だけを貰っていこう。
いい休暇だった。
きっと忘れることはないだろう。

「……さよならだ、ユグ」


遠い遠い昔に別れた、わたしの母にどこか似ていたひと。
たくさんの祈りをくれた、わたしの友達。
小さな囁きにいっぱいの感謝を込めて、遠くに広がる海を見つめる。
その先に広がる遥かな遠い星の海を。
どこかに必ずあるはずの、故郷を。