Eno.356 舟渡しのスティラムス

【第8章】島から飛び立つ時 魔の海を出た先は

やり残した事が無いようにと、はたまた記憶に何かをより刻み付ける為か。
皆の者達は思うが儘に時を過ごしていた。
やがて、島の殆どは浸水が進み…まともに動く事すら儘ならなくなって来た。
いよいよこの島は沈み、この島を出る時が来たのだ。

…正直な所、状況が状況とはいえ…
さも当たり前のように時を過ごしたこの島を出る事には名残惜しさもあった。このまま時が止まっても構わない…
無人島で生活しているうちに、そう思う一面が芽生えつつある事も自覚していた。
だが、それは決して望んではならぬ事。
この島に居た所でこの身が沈む一方であるのだし、
吾輩にも…共に過ごした者達も帰る場所があるのであろうからな。
だから…せめてこの島で過ごした思い出を…
我が身に宿る魂へと…深く。とても深く刻み付けたいと強く願うのである。

…いよいよ出航の時が近付いてきた。
事情によりこの島に残る者も居た様子ではあるが。
それは吾輩が足を踏み入れてはならぬ事。人にはそれぞれ事情があるのだ。
この島での思い出の品を手荷物に納め、吾輩はこの島を飛び立つのだ。

……まことに、本当に世話になったな。偉業者達よ…!