Eno.188 ザギリス・マルティン

cold-told

私は物心ついた時から、書物に囲まれていた。
内の世界を語るものはそう多くなく、外の世界について記されたものが大半。
そうでなくとも、既に失われた概念についての書。
一部を除き、与太とも情報とも呼べるかもわからない……
そんな書物たちが、父の書斎には蓄えられていた。

あそこにあって今日の私を作った書が、二冊ある。

一つ、外界について語る書。
私はこのせいで、今も真の太陽を見んと足掻いている。
ただそこに記されている通りのものを見る気はないし、この書は切欠にすぎない。
全く予想外の物がそこにあっても、それは確かに都市の外側だ。

一つ、呪術について語る書。
私はこのせいで、今日まで生き延びたと言っても過言ではない。
そして、今日まで私を太陽から離れた場所へと足を運ばせてきたのも、
この書に記されている事柄ゆえだ。


そして、今回の体験を経て、私は新たに作られた。
外界でも呪術でもなく、そう…… 内側の本を読み終えた気分だ。

内側にあっては、読めなかった。
この絶海という外に出て、初めて装丁された姿で私の前に現れた。

大きな区別などではなく。
人というものを、知れた気がする。


――我が鎚を取り巻く冷気が、ささやく。

一人の力でも、"三つ"の力でも見られぬ太陽なら、"一番下"から天頂を目指してみるのも悪くないと。