Eno.305 清女谷 三佐雄

清女谷三佐雄の『選択肢』は誰がために





おかあさんとおとうさんは、
わたしにいつもやさしくしてくれる。
わたしのことばをきいて、わかろうとしてくれる。


かみの毛を長くしたい。
かわいい服がすき。
メイクも気になるよ。キレイな方がいいから。
スポーツは……かみの毛とか洋服が変になるからがまん?そうだね。
お人形遊びもすきだよ。○○ごっこは全部すき!


「みさおちゃんは、女の子になりたいんだね」     



そうかも?


家族3人で選んだ水色のランドセル。
女の子に人気の色だって店員さんからのイチオシをもらってる。


お母さんといっしょに、気になる男性アイドルの話で盛り上がったりして。
好きな人?顔が良い人!
将来?およめさんになる?ちょっとよくわからない。


女子グループの輪にも入って、
共通の話題があるって、楽しいと思った。


かげ口が多いんだよね。
その場にいない友達のことをかわるがわるに
あれこれ言うのってどうなんだろう。


私のことは何て言われてる?


声もかすれるし。
あしがいてえ。


ボールをさ。
女子にぶち当てたら冷てえ目で見てきやがった。
ドッジボールってそういうゲームだろ。何がおかしいんだ。


……いや、確かに、
イラついてたのは少し……、……


中学のスカート。
可愛くて好き。


女声を練習した。
身体の特徴を隠すポイント、動き方。
何がしっくりきて、何が気に入らないんだかわからねえけど、
以前の私に近づくことが安心材料のような気はする。


母さんあんた、在りたいままで良いよとは言うが、
それはいったい何なんだ。


俺は何を選んだ?
そもそも『選択肢』なんて、あったのか?


何で裏切られたみてえな目をするんだよ。


……意味もなく、丸墓山古墳の階段を全力で登り降りするのが日課になっていた。
ここは、かの石田三成が忍城攻めで陣を敷いたって逸話がある場所だが、
ぱっと見はただでかい丘だ。
俺はただちょうどいい丘が欲しかっただけで、
その場所で何があったかなんてどうでも良かった。
まあ、それはそれとして、いいよな石田三成。
ゲームだとだいたい顔が良いしな。


ところで蓮ってのは、早朝にしか咲かない。
花が閉じた後に来ても、ただ入り組んだ木の歩道と、茎と葉と、蓮コラときたねえ池があるだけだ。


雨の日には、ただでさえ濁った池が雫で乱れて、何一つ見通せない色を返す。
蓮の葉にはコロンコロンの雫が貯まって、時折こぼれ落ちる。
草むらのあちこちから、絞り出した腹の虫みてえな音が合唱を繰り返している。


私って結局何なんだろうなって、声に出した高音が掠れてやがる。
女声なんてさ、普段使いするもんじゃねえんだよ。
声量がウシガエルに負けてんぞ。


………………うるせえなあ!


腹まで息を吸う。
スカートの見栄え気にして内股を努めてきた両足を開き、木の歩道を踏みしめる。
今は誰もいねえし、誰かいても気にしねえ。
ただ、とっておきの低音を響かせ問いかける。
画面越しの理想郷のように。


「ウシガエルが鳴いているね」

「俺にとってこの古代蓮の池はもはや庭のようなものだが、
 実のところ、この声の主の姿を一度も拝んだことが無い。

 どうだろう、良ければ一緒に探してみないか?」









「こいつデカすぎるだろ!!!!!」





















「何?乙女ゲーの攻略対象にするみたいに、私のことを知ろうとしたって、よくわからなくなるだけかもよ」

「で、私は結局何なのかって?」

「そうだな……まず、女としての私は欺瞞なんだろう。
 髪を長くしたかったのも、可愛い服やスカートを履きたかったのも、正直……女の子への興味の延長に過ぎなかったんじゃないかな。
 男子としてのね。そう思うことにした。

 じゃあ男であることが正しいかというと……」

私はいまだに、『己の性別が男』だと自称することに怯えている。

 男なはずなんだけどなあ。
 だがいったい何が思い込みで、何が在るがままなのか、わからないまま来てしまったからね……
 だからわからないなりにも、考えたよ。私が男として振る舞うのに一番簡単な方法」

「それが言わずと知れた、『乙女ゲーというコンテンツ』として己を消費することだ。

 欺瞞は欺瞞でいることが一番安心できる。作り物でも突き詰めればそこに生まれるのは新たな真。
 何より私好みな顔の良い男が鏡を見るだけで拝める最高のライフハックだしな」




「あぁそうそう、皆にとってはどうでも良いことだと思うが、
 私が『乙女ゲーの攻略対象』を目指しているっていうのは若干語弊があるんだ。
 私はあくまで『乙女ゲーを・・・・・志す』としか言っていないからね」

「だってさ、乙女ゲーの攻略対象は、
 自らの手で選択肢を可視化したりしないだろ?(ド当たり前体操)

 つまりは……こうだ」

「ここに、与えられた『選択肢』しか選べないヒロインプレイヤーがある」

「『選択肢』に準じてしか動けない攻略対象つくりものがある」

「そこに……

 『選択肢』を自ら生み出せるクリエイターエゴイズムが合わさって」

完成された世界観ひとりのにんげんとして全部、受け入れてやる。
 それが私の言う……『乙女ゲーを志す』!

 さあ!

「もっと、もっと、
 表層を見ようぜ!!」






清女谷 三佐雄(セメヤ ミサオ)

身長:180cm
部活:演劇部
学年:全日制3年生
お里:埼玉県行田市 活路は丸墓山の頂上に、想いは古代蓮の泥中に
好きなもの:欺瞞、顔の良い人(好みのイケメンであれば男女問わず)、乙女ゲー(顔が良い)、学園の王子様♀(踏み外すと地雷原)、演劇部の後輩たち
苦手なもの:在るがままに在ること、イケメンのメス堕ち展開(男女問わずなァ!)
恋愛対象:女性 おそらくね。

性別:……この項目は、私が書かずとも君たちが埋めてくれる。ありがとう。