Eno.466 ヨッドラン

島を発つ

父祖の皆々様には申し訳なくも、ヨッドラン家は既に絶えてしまった。
資産も屋敷もなにもかも。

それに私も、子を成せない身体です。

我らの故郷、あの国は。大陸は。もうあと何十年もつのかもわからない。

お祖父様が何度も語ってくれた、“青い空”を、私は見てしまった。

世界は広く、それどころか幾つもあるのだと、知ってしまった。

私は、化け物になっても、戦うのは怖い。
力を使うのが怖い。いつか力に呑まれて化け物の仲間になるのが怖い。共に戦った者たちに討たれるのが怖い。共に戦った仲間を討つのも怖い。

目の前で、守るべきものを守れず喰われるのを見るのが怖い。

誉高いヨッドランの名に相応しからぬ怯懦のさがを、お許しくださいとは申しません。
もはや死んでも、あなた方と同じところに行けるとも思わない。

なので、捨てます。
生まれ育った故郷を。人々を。仲間を。友を。誇りを。誉れを。

逃げます。
“青い空”のある世界へ。

さようなら。



どこかの世界でヨッドランを騙る不届者私の友人はいるかもしれず、その男が栄華を得れば、ヨッドラン家も再興したとも言えるだろう。
そういう夢を見るのも、きっと悪くないはずだ。