Eno.625 Leonhard.H.P.

また繰り返し、そして続ける

自由の身を勝ち得たまではまだよかった。
居場所を探すべくあてもなく彷徨い、見つからず。
長い彷徨を経て——果てに漂流して。流れ着いた無人島で久々に他者との交流を得た。
当初は「共存しなければやっていられないから仕方なく」関わって貰えているものと思っていた。それだけ自分の身が異質で奇妙なことぐらいは自覚していた。

無意識の警戒から解き放たれ、本当に心を許せたのはいつだったか。
予想以上に「異質」に適応する面々が多かったからなのか、それとも雨水を好んで飲むような「異質」な面々だったからなのか……今となってはそれを知る由もないし、そもそも理由もどうだっていい。
ともあれ私は、このコミュニティでは一部として受け入れられていた。

しかし、その日々もあくまで一時的なもの。
予告された通りあの島は沈み、我々は手製の船で脱出した。
これまで通りの道へ戻るもの、新たな道へ向かうもの。道は分かたれ、そして私が船に一人残り——それきりとなるはずだった。

ならなかった。何の因果か、脱出したはずの大多数がまた同じ島に流れ着いていた。
単なる偶然、とは片付けられない現象。一人の船旅でもなお安住の地を見出せず、そして譲り受けた船も喪った私は「また同じように沈没を前に船を出し、そして私は何も変わらないのだろうな」と認識していた。
船が出るならその直前でひっそり姿をくらまし、誰にも何も言うことなく、島の思い出全てを背負って沈んでしまおうと考えた。
かつての勇者がそうしたように、物語ははっきり終わらせることも重要なのだから。

二度目ということもあってか、彼らの手際は明らかによくなっていた。
元々多くが見知った顔、それゆえか「この人物はこうする、こうなる」といった傾向を概ね把握できていたのが大きかったかもしれない。
手一杯だった暮らしも時を経るごとに安定し、手の込んだ料理なども複数用意できるようになったところでちょっとした宴会が開かれた。
安定してきた、時が経った——終わりが近い。

私は覚悟を決めるべく、その輪から少し離れたところでひっそりと酒を飲んでいたのだが……そこを見つかってしまったのがマズかった。
共犯者に仕立て上げられればよかったのだろうが、そうするにはあまりに相手が悪すぎた。
何かあることを容易く見抜かれ、彼女からある一つの提案を受ける。

弱みに付け込まれたのかもしれないが、物書きとして受けない選択などない提案だった。
作り手が外に出さなければ、登場することは叶わない。
あまりに儚い存在だが——同時に心強い存在でもある。

予期せぬ人質を前に、私は今後のプロットすべてを破棄した。
きっと似た道をまた辿ることになるが、それでも前とは別の道だ。

行く先もまた変わると信じて、まだ物語を記し続けよう。