Eno.26 アルセ・K・ディアス

別に知らなくてもいい事

膨大な魔力に少しの呪力、そして元々持っていた魂から一欠片だけを使って作られた身体に元の身体から引っ張り出して宿された一つの人格と意識、肉体も生命力も無い不可思議な存在。
もう少し付け加えるのなら彼は魔術師であったと言えど元人間であり、変異の経緯故に現状の生活では概ね人として存在しているが、怨霊と紙一重である存在であった。
厳密には違うので致命的なレベルではないが、怨霊と紙一重なので聖属性とは相性が悪い。

ここに来る前の世界では思念体と自称していた、本来は幽霊のような身体でありそこから実体化をする事で人の振りをしていたが、8日間も連続で維持する事は不可能だった。
幾ら食料や水が確保出来たとはいえ人間の範囲内に押し込もうとするこの世界の干渉によりなんとか維持出来ていたに過ぎず、本来なら休息や補給が無いと辛うじて一日持つか持たないかであり、あったとしても必要の無い時はこまめに解いていた。なのでこれほどの期間実体化し続けたことは無く疲労は相当貯まっていた。

短い間であったが何時もよりは人間に近い状態で過ごした日々は、一部分と言えど徐々に人間から乖離しつつあった精神を少しばかり人間側に引き戻しただろう。

その事の良し悪しは今は判断出来ないが。

「まあ、無事に帰れそうで良かったよ。」



「あの島に来ていた全員と協力出来たのは幸いだったな……謎の猫っぽいのとかよくわからない動物とか人間以外も居たし、そうでなくとも俺以外にも人外が居たかもしれないが。」



彼はかなりマシにはなったが人間不信だった。故にこの非常時でも協力しあえた事は本当に幸いであった。