Eno.176 アグ=ググ

昔話

本を読むのが好きだった。
魔物に成ってこの姿を得てからというもの夢中になって知識を貪った。
将来は先生になれたらなあ、なんて漠然と考えていた。

子どもが好きだった。
この容姿だからか、子どもが寄ってきた。
みんな素直で、無邪気で、可愛かった。
背に乗せてくれって言うおねだりだけは困ったものだけど。

人間が好きだった。
ろくでもないヒトも多かったけど、それでも優しいヒトもいた。
面白い本があれば教えてくれるし、一緒に読んだりする友達がいた。


……それも全部過去の話。


魔物は人間にとって都合のいい道具でしかない。
憂さ晴らしに玩具みたいに甚振られて、視力を失った。
好きだった本は全部白紙にしか見えなくなった。

子どもたちの眩しさが見ていられなくなった。
何もかもを持っているようで、羨ましくて、疎ましくなった。

この傷が人間の所為だと知った友達はひどく悲しそうだった。
絞り出すような声で「ごめん」と言って、それきり姿を見せなくなった。


好きでいることがこんなにつらいなら、最初から嫌いでいればいい。
……簡単な話だよね。