Eno.476 阿部近 奈々花

海の上にて

島との別れを惜しむかのように、長い汽笛が鳴った。
島で過ごした一週間に思いを馳せると、潮風が頬を撫でていく。
「大変だったけど、楽しかったなぁ〜」
船が出発してから、島が沈む速さはどんどん上がっていく。
浜辺に敷いた道路がもう水の下になってしまっていた。
さらに、船が進めば進むほど島はどんどん遠ざかっていく。
沈むのが原因か、遠ざかるのが原因か……島が見えなくなるまで、ナナはずっと島を眺めていた。

島が完全に見えなくなる頃には、すっかり日は落ちて、辺りは暗くなっていた。
「船旅も延長戦みたいで面白いけど、お家にはいつ着くのかな〜?」
間もなく訪れるだろういつもの暮らしを思うと、急にどっと疲れが出てくるように感じた。
「う〜ん、キャンプ生活は良かったんだけど、ちょっと身体を使いすぎちゃったかな……。普段全然動いてないからなぁ……」
あまりの疲れのせいか、だんだん目を開けていられなくなってきた。
そしてナナは船のデッキに座り込んだまま――
意識は波の音に包まれて消えていった。