Eno.66 浅岡百合子

閑話-異能について

 
その世界に生まれた人は何らかの力――《異能》を持っていた。

浅岡百合子、彼女の母親は彼女の《異能》にこう名前を付けた

みんな友達Coucou amitié!

その力は単純、『電気信号を受信する』もの。

「スマホを触らなくても受信したメッセがわかるしちょっとした検索ならできる程度」
普段はそう説明しているし、それ以上のことに使うこともなかった。

だけど制御のできない幼少時は他人の脳に流れるもの――感情を読み取って
嘘を嘘だとあばいたり、人が口にしなかった本音を代わりに発したり

「みんなはそれができない」
「知られたくないことがある」

成長と共にそう気づき、異能を抑える訓練を受け、やっと学校に通えるようになった。

なにがきっかけだったか、制御できなくなることもあったが、
友人に助けられ、小さな怪現象を追いかける一員になった。

場所は変わって侵略戦争の舞台、『ハザマ』
元々大罪を犯して追放された"極悪人"たちを相手取るためのハンデ
各々が持つ《異能》は、その空間でだけ強化された。

受け取るだけだった浅岡百合子の《異能》は、発信、干渉するほどまでになった。
自我の強いもの……人間相手には効かなかったが、
"倒すほどポイントになる"生き物たちの中には、
友好的な感情を持たせ、ともに戦う"仲間"にできる種もいた。

『ハザマ』でだけ使える、両陣営共通の『技能』
浅岡百合子――リリィは補助や回復を担当しながら、
相手によって戦い方の異なる"仲間たち"に指示を出し、それなりに勝利を収めてきた。

しかし戦場のたった一部。
全体でみれば趨勢は芳しくなく、結果は敗北。

囚人たちと住む世界を入れ替えられてからはなりふり構っていられなかった。
誰かが無理を隠していないか、
相手の同意があれば範囲内ならテレパシーのように使える《異能》を、活かさない理由がなかった。
むしろ、『ハザマ』の事さえ知らずに突如知らない世界に放り出されてしまった人たちへの贖罪。

異能の詳細は語らず、ただ『気がつく人』として、駆け回った。


『ハザマ』では誰もそんなことを気にする余裕も、
気づいて指摘するような悪意に晒されることはなかったが
そうして従えていた"アミティエ"は、友達と呼べたのだろうか?




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「……そーいえば、こんなに静かなのいつぶりだろ」

   ――幾度目かの夜、浅岡百合子の呟き