Eno.229 ヨークル・フロイプ

水底の記録1


最新の防具、幾重にも取られた安全防護措置
ソレはいともたやすく我々を呑み込んだ

意識を取り戻した時点での現在地は不明
仲間たちの姿は確認できない

濁った水の中でただただ重力に従って底へと誘われている
水底の色は灰色

一足先に沈んだ仲間たちは灰の中に埋められたのかもしれない
私ももうじき同じ運命を辿るのか
運命に抗うため水を掻くが身を守る為の防具は重く、私を下へ下へと誘う

もっとも、防具に搭載された酸素ボンベにより私の命は繋がれているのではあるが

正気を保つため、また家族へ私の最後を伝える為、またこの自然災害を記録するため
この記録を残している

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頭に巨大な氷河を乗せたこの山
一見すると雪山だが、この山の下には熱く煮え滾る溶岩を抱えている
近頃、この溶岩が活発なのだ

その調査の為、私達の観測チームは機器を山肌に設置していた
時折、大きな揺れを身に感じる
防具機器が火山性のガスを感知する

危険を感じるが、同時に好奇心が満たされていくのを感じた
私達人類が生きている短い時間のうちにこれほどまでに活発な火山活動を肌で感じられるのは幸運なことだ

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大半の機器の設置が終わった
氷の上で撤収の準備を始めた頃だっただろうか

一際大きな揺れが私達を襲った
本能的に誰もが感じただろう
「今までの揺れとは何かが違う」と

誰かが山頂の方を見て叫ぶ
氷の世界にはふさわしくない噴煙が空を覆い尽くしていた

悲鳴が上がる
同時に身体が宙に舞う感覚
直後に水音

それが私達が経験した最初で最後の噴火体験となった