Eno.476 阿部近 奈々花

雲の上にて

「――なさいよ」

「――ろ降りる準備しときなさい」

「ナナ!」
はっと目が覚めると、目の前には整然と並んだ座席があった。
声のした方を見ると――呆れたような顔がこちらを覗き込んでいる。
「ほら、もうすぐ降りるんだからもう起きてないと」
「ふえ? 船は? なんで……?」
「あんたねえ……寝ぼけるのも大概にしなさいよ」
島を出発して、さっきまで船に乗っていたはずなのに。気づくとそこは飛行機の中だった。
そして、頭を抱えるルームメイト――みかぴがそこにいて――思わず涙が溢れた。
「みかぴ、良かった……ただいま、また会えて本当に良かった……」
「はあ? 旅行中もだいたいずっと一緒に過ごしてたじゃない……」
「あれ? だって、気づいたら知らない島で、みんなでサバイバルキャンプしてて……」
「この〜! 私が何食奢ってやったか忘れやがったわね!」
「いた、痛いぃ〜」
頭をぐりぐりされるのが痛くて、でもみかぴが本当にいるんだ、と実感して。さらに涙が止まらなかった。

あまりにも泣いているので、みかぴもだんだん落ち着いて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
涙が止まるまで、この7日間の語り尽くせないほどの思い出を、つたない言葉で絞り出した。
みかぴはうなずきながら、ずっと最後まで聞いていてくれた。
「……あっ! 思い出した! ほら写真!」
何とか話を信じてもらいたくて、島で写真を撮っていたのを思い出した。
スマホのアルバムをめくると――あった! 最後にみんなで撮った集合写真だ。
「これは……浜辺で他の旅行者さんと仲良くなったときの……いや、いい思い出ができたのね」
みかぴがちょっと寂しそうに笑うのを見て、やっぱり優しいんだな、と心があたたかくなった。

「そういえば、あのお守りは……」
ほとんど空っぽのカバンを探ると、そのお守りは確かにそこにあった。
この旅行の、確かな思い出のお土産。
これを見ただけで、この7日間は確かにあったんだな、と実感した。
「――また行きたいな」
「――そうね、今度はナナが全部奢ってよね」
「え〜? ナナは食べ物なんて準備しません!」
――前までは本当にそう思っていたけど、みんなでシェアした食べ物はとても美味しかった。
きっと、みかぴとシェアしたら、どんなご飯も美味しいだろうな。

二人を乗せた飛行機は、ゆっくりと私達の街に向かっていった。
いつもの日常が、またやってくる。