先にある
男は知らない。
男が異世界に飛ばされたほんの数日後に、
妻子が大型の魔獣に襲われたことも。
それで、妻が両脚を失い、息子が娘を庇って死に、
娘は大怪我を負って記憶を失って苦しんだことも。
彼らが苦痛と苦悩に溺れることも。
男がこれから先、絶望以外の全てを失うことも。
男はまだ知らない。
これは確定された未来の話。
男は人型の獣と出会う。
それは、外見上は完全に汚染されていた。
赤い髪、赤い鱗、鉤爪、黒ずんだ肌。
どうしてまだ人型を保てているのか、それくらい汚染されている。
それはまだ人としての自我を残していて、饒舌に喋る。
「すべての騎士の悲願において、あなたを討伐する」
すべての騎士の悲願とは、すべての魔獣の殲滅である。
馬鹿な、と。
男は気づいていなかった。既に自分が汚染されつつあることを。
男は気づいていなかった。眼前の汚染された騎士が娘であることも。
始まった殺し合いの末に男が獣になり、娘を喰らうまで。
何も、知らなかった。
男が異世界に飛ばされたほんの数日後に、
妻子が大型の魔獣に襲われたことも。
それで、妻が両脚を失い、息子が娘を庇って死に、
娘は大怪我を負って記憶を失って苦しんだことも。
彼らが苦痛と苦悩に溺れることも。
男がこれから先、絶望以外の全てを失うことも。
男はまだ知らない。
これは確定された未来の話。
男は人型の獣と出会う。
それは、外見上は完全に汚染されていた。
赤い髪、赤い鱗、鉤爪、黒ずんだ肌。
どうしてまだ人型を保てているのか、それくらい汚染されている。
それはまだ人としての自我を残していて、饒舌に喋る。
「すべての騎士の悲願において、あなたを討伐する」
すべての騎士の悲願とは、すべての魔獣の殲滅である。
馬鹿な、と。
男は気づいていなかった。既に自分が汚染されつつあることを。
男は気づいていなかった。眼前の汚染された騎士が娘であることも。
始まった殺し合いの末に男が獣になり、娘を喰らうまで。
何も、知らなかった。