Eno.297 ハイウェイマン

highwayman

「ハイウェイマン……」

市井の人々が自分達に出くわした時、最初はその名前を、怖れや警戒をもって呼んだ。

廃集落に居を構える、武装の良い敗残兵。
乗馬率も高くて、もし害意があれば逃げられない。

そんな意思がない、と伝わり始めるのは割と早かった。
小綺麗にし、出来るだけこの地域の言葉を使い、廃集落の壊れた建物を片付けた。
こういう手合にしか頼めない仕事も、もちろん多かった。


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「ハイウェイマン、娘が家出して……」
「ハイウェイマン、この間の大雨で水路に泥が詰まって……」
「ハイウェイマン、ボドゲにのめり込んで土地の権利書が……

段々と自分たちを呼ぶ声に恐れは無くなり、直接向こうから自分たちの居住地に足を運んでくる人が増えた。
一番下のやつみたいに、曲がりなりにも賊にそれを頼むか?と思うような依頼も届くようになった。



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「あ、ハイウェイマン!」
子供達が自分たちの姿を見て、手を振るようになった。

「ハイウェイマン、娘がまた家出したんだけどそっちに遊びに行ってない?
家出癖のある村娘が、とりあえずの行先に選ぶようになった。

「ハイウェイマン、村の産物がだぶついてるんだが、いい売り先無いかな?君達でも歓迎だ。」
道路網から得られる情報と、自分達が支払う銀貨を疑わなくなった。


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「ハイウェイマン!村が………50人を超える傭兵団に……!」

「ハイウェイマンが助けに来てくれるって、あの子……」

「俺たち、何とか村人を森に逃がすのが手一杯で……」

荒らされた村、散り散りになった村人、悔しそうな村の自警団。
流石に領主の仕事になる規模の相手だ。そっちに言ってくれ……そう言うべきだとは思った。

「……追おう。少人数で別れて、数が分からないようにして囲もう。 来れる人は賊でも自警団でも来てもらえば、90は超える。」



口から出たのは、こんな言葉だった。