星渡り
ずっとずっと昔の話。
わたしが一番幸福だった時間があった。
人を愛した。人に愛された。
今でもまだずっと愛している。
だけど帰らなければならないから、全てを置いて旅に出た。
いつになったら終わるのかわからない。
それでも旅を続けている。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
あの島から持ち出したクッキーをかじっている。
まだ味がする。
この世界を離れたら、また何も食べない時間が続くだろう。
食べる必要はないのだけれど、食べることは嫌いではない。
わたしはわたしに食べ物を与えてくれた者の気持ちを食べている。
だから何かを美味しく食べられるということは、とても嬉しいことだった。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
同じようなものを食べた記憶はあるのだけれど、それが何だったかまではどうしても思い出せなかった。
恐ろしいことだ。わたしが覚えていなければ消えてしまうのに。
時間の流れが容赦なく記憶を奪っていく。
急がなければ。君のことすら忘れてしまう前に。
腕に抱えたままのお守りをぎゅっと握り締める。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
一番会いたいヒトに会えるのは、きっといいことだ。
わたしも、君に会いたくなってきたよ。トール。
この旅が終わったら、また世界を渡って君に会いに行こう。
いつになるかはわからないが、君はきっと待っていてくれるだろうから。
クッキーの甘みが次第にぼやけてきた。
海よりも空が近くなる。そろそろ、時間だ。
さようなら、ジーランティス。
わたしのようなものも受け入れてくれた、優しい世界。
ばさりと大きく翼を広げる。
わたしは種を持っている。
新しい世界を作るための、大事な種だ。
今はまだ何も存在していない、ただの抜け殻にすぎないけれど。
いつかはわたしたちもきっと、大海原のように、大樹のように、優しい世界になるだろう。
命になる。それが、今からとても楽しみなんだ。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=nikki.webp)
わたしが一番幸福だった時間があった。
人を愛した。人に愛された。
今でもまだずっと愛している。
だけど帰らなければならないから、全てを置いて旅に出た。
いつになったら終わるのかわからない。
それでも旅を続けている。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
「……まだ、甘いな」
あの島から持ち出したクッキーをかじっている。
まだ味がする。
この世界を離れたら、また何も食べない時間が続くだろう。
食べる必要はないのだけれど、食べることは嫌いではない。
わたしはわたしに食べ物を与えてくれた者の気持ちを食べている。
だから何かを美味しく食べられるということは、とても嬉しいことだった。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
「結局、君が焼いてくれたのはフレンチトーストだったんだろうか。
それとも、なにか別の菓子だっただろうか」
同じようなものを食べた記憶はあるのだけれど、それが何だったかまではどうしても思い出せなかった。
恐ろしいことだ。わたしが覚えていなければ消えてしまうのに。
時間の流れが容赦なく記憶を奪っていく。
急がなければ。君のことすら忘れてしまう前に。
腕に抱えたままのお守りをぎゅっと握り締める。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=icon.webp)
「……ユグは伴侶に会えただろうか」
一番会いたいヒトに会えるのは、きっといいことだ。
わたしも、君に会いたくなってきたよ。トール。
この旅が終わったら、また世界を渡って君に会いに行こう。
いつになるかはわからないが、君はきっと待っていてくれるだろうから。
クッキーの甘みが次第にぼやけてきた。
海よりも空が近くなる。そろそろ、時間だ。
さようなら、ジーランティス。
わたしのようなものも受け入れてくれた、優しい世界。
ばさりと大きく翼を広げる。
わたしは種を持っている。
新しい世界を作るための、大事な種だ。
今はまだ何も存在していない、ただの抜け殻にすぎないけれど。
いつかはわたしたちもきっと、大海原のように、大樹のように、優しい世界になるだろう。
命になる。それが、今からとても楽しみなんだ。
![](https://www.rabbithutch.site/usagoya/picture.php?user=harunoyoiyami&file=nikki.webp)