Eno.11 レイモンド・マクファーソン

ごじつだん。

40年。それは当時にしては大往生かもしれない。
思いは継がれ、しかし志半ばにして———— 伴侶の吸血鬼の心に永住することとなった日。




・・・それから更に、1000年ほどの月日の経った ある日の話。



思い出したのは、10の年を迎えたときのこと。
何かの祝か知らないが、隣の国で10年ぶりに花火があげられるということで。
それを友だちと見に行ったときのことだ。

山を隔てた隣の国は、今でこそ入国が容易だが自然の要塞のように閉鎖的に感じていた。
一方で、医療の神が祀られているともあり、旅行や観光 ないしは冒険者の出入りも盛んだと聞いている。

しかしなにせ、吸血鬼と人間が共存する国である。
吸血鬼を外に出さないようにしているのか、あるいは・・・と思うほどであった。

だがその夜あげられた花火は、その山を越えて見えるとても眩しい花だった。

「あ・・・。」


それまではなんだか少し自分に空白があるように過ごしていたけれど。
はっきりと自分に、自分が!戻ってきたように感じた。

・・・あの山を越えてあの国に行かなければ。

そう思った自分は元々得意であった狙撃銃の腕を磨いて、勉学に励み そして・・・


・・・24歳にして。

その国へ足を踏み入れた。

「・・・記憶の中の国の景色とはずいぶん変わっちゃったな。
 だけど、教会の場所は変わってないみたいだ、わかりやすい。」


教会に踏み入れて出迎えてくれたのは人間のシスターのようだった。
礼拝ですか?・・・ロベルト司祭ならば、裏の墓地に と案内を受ける。

ロベルト?少し名前が違う気がする。
・・・仕事中なのかもしれない。終わったら来るように間を取り持ってくれた。

人間がこの教会で不安なく過ごしていることを喜ばしく思いながら。

『吾輩に直接の用とは、如何なる悩みでも抱えられておられるか 隣人よ』


・・・ん?声が低いな?
思わず振り返る。振り返ったそこには、吸血鬼の司祭がいる。

透き通った髪は赤を限りなく白に近づけた色だが、見間違えるはずもない。
瞳はルビーのように濃い赤色だ。全くあの頃から変わりがない。

・・・間違いない!

振り返った自分を見て、司祭も幾分か合点がいったのか 疑っているのか 明らかに動揺の表情を見せる。
すぐに取り繕ったが、動揺した姿など何度も見ている自分にそれを隠せるはずもない。

『・・・失礼 知り合いに似ていたもので。』

「いや、ルヴィだろ? 男になってないか??」

『ッ・・・! お前、 ・・・そんなはずはない
 そう呼ぶのは今生でもただ一人のはずである。ましてや女性では・・・』

「いや!その一人!!レイだよ!レイモンド!・・・今はレイチェルなんだけど。女だから。」

「・・・ありえないのである・・・生まれ変わってきてそのうえで記憶も持っているのか?お前・・・っ」



動揺もだがありえないという風に頭を抱えつつ、本当にレイか?と口にしてくる。
大男がよろとしているのは、なんだか面白い光景だ。
自分からしたら、あの赤髪は透き通って殆ど白だし、男だしで本当に俺のルヴィ?となるが。

証拠に海に行った夢で作った料理やら仲間の名前などもあげていった。
それでようやく、信じてくれたようだ。
しかし、ロベルタではなくロベルトと名乗っているとは。

「だいぶ時間が経ってしまったけど、こうしてまた会えて嬉しい。
 そうだ、あの夢を見てから忙しくて行けなかったけど・・・ 話していた皆に会いにでかけないか?」

『・・・ それもいいのである。 こちらも少々出払っている吸血鬼もいるくらいであるからな。』

「海にもだ!勿論流水対策は万全にしてな!!それと同じ料理もやって・・・」



1000年ぶりの会話はいくらでもできそうであった。
幸いにも隣の国であるけど、自分はこのために家を出てきたようなものだから
ここの国で住むのもいいかもしれない。

『レイ』

「ん?」

『また私と、共にいてくれるか。 千の夜と万の昼の先も。』

「当たり前。むしろずっと共にいたと思ってたさ!」

『いや、もう一度結婚しよう』

「えっ!」

『私は今男で、お前が女ならちょうどいいであろう?』

「あっそういう、なるほどね?」



その日、その国には花火があげられた。
山を越えて輝く、大きな光だった。