Eno.16 ミオソティス

【18 終 花咲く異界で、ミオソティスは】

 
 勿忘草は、孤独だった。
 勿忘草は、愛を知らなかった。
 勿忘草は、愛に狂った。
 勿忘草は、そして──

「…………愛を、知れた?」



 今なら少しは信じられる気がするんだ。
 今なら少しは自分を愛せる気がするんだ。

 消えない痛みもトラウマもある。
 でも、このふたりとなら。
 そして僕も、誰かの痛みに
 寄り添えるようになれたなら。

──あの島の仲間たちが、僕にそうしてくれたように。

  ◇

 ニライは僕に、熱をくれた。
 リシアンサスは僕の、居場所になった。
 クライルは僕に、ただ寄り添ってくれた。
 ねーさまは僕の、ひだまりだった。

 アルもクロウもノアも、大切な仲間だ。
 あのねこちゃんも、かわいかったな。
 あの7日間で得たかけがえのない日々を、
 僕は絶対に忘れることはないのだろう。

「──ありがとう、
 大好きだよ!」



 運命の女神様が微笑むのなら、
 僕ら、また会える日も来るのでしょうか。
 打ち上げた奇跡的な再会ハーデンベルギアに込めた祈りが、
 現実となることを願っているんだ。

──そして、今日も日々は続く。

「リシアンサス、クライル!」

 花咲く異界、穏やかな異界、
 リシアンサスの異界で。
 僕はぱたぱた、駆けていく。

 どうしたのと、ふたりは優しい顔をするんだろう。
 僕は頬を上気させながら新しい発見を話して、
 ふたりはきっとそれにちゃんと返してくれる。
 ささやかな幸せが、僕の心に降り積もっていくんだ。

──ねぇ、過去の僕、
 死にたかった僕よ、見ているかい?

──生きているのは、楽しいんだ。
──だからさ、諦めてたその顔を上げて、
 自分の前を、伸ばされた手を、ご覧よ。


 待っているふたりの方へ、駆けていく。
 転んじゃったら、泣いちゃったら、
 ふたりはきっと助けてくれるんだろう。

 僕が欲しくてやまなかった愛は、
 確かにここにあるのだと確信出来ている。

 ふと立ち止まって見上げた空は、
 あの島と同じ色をして。

「…………」



 懐かしさに、僕は穏やかに微笑む。
 そんな僕の足元には、
 未来への憧れアルストロメリアの花が咲いていた。

【ミオソティスの花便り
──TRUE END!】