Eno.66 浅岡百合子

リリィ-救護室にて

 
うちには、なんにもなかった
人の顔色が、本音がこわくて、嫌われないようにするだけでいっぱいいっぱいで
それじゃだめだって知ったのは、取り返しがつかなくなってから
ちゃんと、本音で話して、本音を聞くべきだった。
きけなくても、嫌われても、その度胸を持つべきだった。

それでもどうしようもないこともある
けどそれはナンカの試練とか、世界の意地悪とかじゃなくって
友達と協力して、何とか乗り越えて、大変だった!って笑うため
そう、思っていた

でもこの島で、そうじゃないものがやっぱりあるってわかって
せめて、と針を持った。

うちは花が好き
お母さんも、おばあちゃんも、そうで
学生の間は、友達んとこの花屋でバイトさせてもらってた

切り花の扱い方以外にも、色々勉強した

黄色いまあるいサントリナの花言葉は『悪を遠ざける』
オレンジで、おしゃれなランプみたいなサンダーソニアは『祈り』や『望郷』
細長い花びらをたくさんつけるアスターは青だと『信じる心』

他の世界に通じるかわかんないけど、うちの世界には花に意味を持たせて
そこに気持ちや願いを重ねることがあるって
そういう話、できなかった。


何度もなんども「はずれ」でも
いつかちゃんと帰れるように
それまでの苦しみが、少しでも軽くなりますように

きっとみんなおんなじ想いだって。
確認しなくても、きっと――  ―― ―

――……あたまがくらくらする
あんなにばちったの、現実じゃ初めてじゃないかな
だから今はもう少しだけ……おやすみなさい