Eno.76 アルジェント

焦土にて

地面が燃える音がする。
誰もいなくなり最早無人になったこの場所で、
パチパチと人の代わりに火が祝いの言葉を紡いでいる。

思いの外、喜びはない。
あまりにも簡単だったから…だろうか。
相手はただの農夫共だ、苦戦するだろうとは
全く思ってはいなかったが、
殺害したはずの人間が戻ってきたという衝撃は
人間の判断能力等を低下させるらしい。
ごめんなさい、ゆるして、たすけて…
大体それくらいの事しか言わなくなった奴らを
火の中へ投げ込んでいくのはあまりにも簡単だった。

…ごめんなさい?


ゆるして?



ふざけるな
ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな!!
お前たちを助けるような神なんていない!!
お前たちを許すような神なんていない!!
そんなものがいるのだとしたら、
私は最初からこんな風になっていない!!

神が許したとしても、私が許さない
受けた恩を返さず、剰え私を殺したお前たちを
私は、絶対に許さない



火が消えない。
人や家どころか、地面すらも焼き焦がす勢いで
復讐を果たしたはずなのに。
この身体は止まらない。終わりの時を迎えない。
怒りの炎で起き上がった弊害なのだろうか。
それとも悪魔と契約した罰なのだろうか。

……ああ、でも、だったらそれで構わない。
私はここで、ずっと火を絶やさずに留まっていよう。



果たせないだろうと思って結んだ約束と、
あの輝かしい日々を胸にしまったまま。

あの穏やかな短い日々が私をまとも・・・でいさせてくれる。

だからきっと、ずっとずっとこのままでいられる。

いつかこの土地と共に、灰となって崩れ落ちる…

その時まで