Eno.356 舟渡しのスティラムス

【第9章】水上で揺られ 今までの事を想う

いよいよ救助船は出発し、吾輩達、救助船の乗船者達は島を離れて行った。
出発の間際に、島の方から花火が打ちあがったのが見えた。
島に残った者が我らを見送る為に打ち上げてくれたのだろう。
その花火を見て、様々な気持ちが込み上がったように感じた。
…本当に、島では良い時が過ごせた。
もう、あの島に戻る事は叶わぬであろう。
だからこそせめて…魂に深く刻んだ記憶という形で。
あの島の事は持ち帰ろうと思うのだ。

船旅は続き…気が付けばかつて過ごした島は随分と遠ざかったように見えた。
…船員の者の言葉を振り返る。
あの者曰く、我らがあの島に迷い込んだ時の様に…
島の水没は丁度他の世界の海域と繋がる間らしく。
その間を通じて我々は故郷へと帰る事が可能だと言う。
…ついに、故郷への帰還が叶う。
今はその喜びを嚙み締め、この船旅を過ごしていこうと思う。

…しかし、安心しきった故かどっと疲れが圧し掛かってきた気がするな…
救助船に乗ってしばらく経たぬうちに眠りについてしまった気がする…
…やはり、船の上は落ち着く。
普段よく乗る小舟とは違うし、櫂を持つ事も無いが…
それでもやはり慣れた感覚に気持ちが落ち着くのである。
だが、救助船の上ではあまりする事が無く、退屈さも感じていた。
それほど島での生活は良い刺激になったという事かもしれん…
まぁ、思い出に浸りながら歓談して過ごすのもまた一興というものだ。
それと、ヒルヲと共に…島で採れた木の実で作られた
恐るべし酸味を持つジュースを飲んだりもしてみたな。
うむ、めっっっっっちゃ酸っぱかった。好奇心とはいええらい目に遭った…
アヒルについて色々話したりもしていた。
アヒルにも異なる得意分野があるらしく、興味深いものだ。


……この何気なく過ごす一時すらも、真に思い出深く、愛おしく感じるのだ。