Eno.659 疾風刀

花波シオンの記録【6】

 甘い物が食べたくなってきた。
 救助船には食料や飲み水は積んであっても、流石におやつは積んでなかった。
 元の世界へ帰るまでにお腹が空いたり喉が渇いたりっていうのは無さそうだけど、私は今、甘味がほしい。
 でも救助船ここに無いんじゃしょうがないわね。

 私がひとつ溜め息を吐くと、それを見ていた刀がまた道具を取り出して作業し始めた。
 聞いていたのかしら。今度は何を作る気かしら。というか、本当に色々持ってきたわね?

『そういえば、難破した無人の船を荒らした時、甘そうな粉を拾ってな』
「もっとこう誤解されないような言い回し無かったの??」

 本当に誤解を招きかねない!
 多分、無人の難破船を探索していたら調味料を見つけたって言いたいんでしょう。
 調味料で甘そうな粉と言えば……砂糖? あれ粉って言っていいのかしら……。
 深く考えすぎて逆によく分からなくなった私の近くで、刀は気ままに何かを作っている。

 ……あら? そういえば、砂糖と水だけで作れる食べ物・・・・・・・・・・・・・があったような……。




 それから数時間後、『手を出せ』って刀が言ってきたので、言葉のままに手を差し出すと、そこに完成した食べ物をころんと置いてきた。

「えっ。これって」
『飴、というのだろう? 舐めて味を楽しむという。我にはそれの何が楽しいのか分からぬが』

 飴ちゃん……こいつのイメージに全く合わないわね……うふふ……。
 心の中でちょっと笑っちゃったけど、急に作った意味はまだ分からない。

「そうねぇ。何でも噛み砕いちゃうようなひとにはわからないかもね」
『くだらん。が……少なくとも、コレは今の御前が最も欲している物なのでは?』
「ぎくっ。」
『御前は分かりやすくて面白いな、シオン』
「うぐぐ、言ってないのに」
『故に反応を伺ったのだ。どうやら合っていたようだがな?』
「こ、この~! カマかけたわね~!」
『ははは。何にせよ、せっかく手間を掛けて作ってやったのだから、我を崇めて食すが良い』

 私は最近、いつもこいつに振り回されているんだけど、今回は本当に手玉に取られてしまっている。悔しい。けど反論の余地が無い。

 こうして完全に敗北した私は、大人しく刀が作ってくれた飴を舐めるのだった。