Eno.659 疾風刀

花波シオンの記録【7】

 私はようやく、仲間たちがそれぞれ乗っている救助船と合流する事ができた。

 そして現在いま、四隻の船が並走している。

「想像だにしてなかったなぁ、そいつが遭難するなんて」

 最初にそう言ったのはサバイバーだった。

「ひとは見かけによらない、とはこういう事だな」

 それに続けるように、ディーマも口を開く。

「いっそ行動不能になってたら、ちょっとは面白かったのに」

 そうだったら思い切って笑ってやるところだったけど、残念ながらちょっとだけ負傷している程度で、刀は全くピンシャンしていた。

『縁起でも無い事を言う』

 当の本人、人間じゃないけど、は笑いながら、私の言葉にそう返した。
 本気で思ってないでしょ、絶対。笑ってるし。余裕そうだし。


「――しかし、こうして実際に来てみると、この世界は異様だし、海も異常だな。先日、新たな海を取り込んだと聞いたが……つまりここは、様々な異世界の海を取り込むのか?」

 そういえばレイワは、前回は推測しただけだったものね。

『さて、な。我には興味の無い事だ。もし解明したければ、今度試しに遭難してみては?』
「遠慮しよう。オマエのように脱出できなかったら困るからな。ワタシはもう蘇れないのだ」
『フフ、それは残念。だが、海辺の依頼をこなす時は気を付ける事だ。今度はこの異世界に取り込まれるやもしれんぞ?』
「……善処する」

 刀と話すレイワも、勘弁してほしそうな表情かおを浮かべていた。
 確かに好き好んで遭難しようと思うひとは居ない。狂人でもなければ……。
 それはともかく、もし次に居なくなるのがレイワだったら嫌だなぁ。
 サバイバーやディーマでも嫌だけど、レイワが居なくなるのが一番嫌かも。

「レイワが居なくなったら私、全力で探すからね」

 今回の依頼では手が届かなかったから、今度は手が届かなくなる前に行動する事にする。
 レイワにはまだまだ、色んな世界を見て回ってほしいもの。

「シオン……」

 私の気持ちが伝わったのか、レイワは少し照れながら微笑んだ。

『好かれているな、桜人形レイワよ』

 言い回しはともかく、流石の刀も水を差すような真似はしなかったか。

 本当に気まぐれで、普段は何を考えているのか全く分からないけれど。
 現在いまたまに優しい一面も覗かせる・・・・・・・・・・・・・、と思う事にしている。
 私はどうしたって人間で、夢を見たい種族だからね。


 ◇


「レイワって泥酔して目が覚めたら知らない場所に居た、とかにゃならねぇから良いよな……」
「彼女は飲み食いができないからな……」

 魔剣と人間と人形が話し合っている中、竜人の二人はこちらで話し合っていた。

「どこかで頭を打って記憶喪失にでもなったら、知らない場所で慌てるかもしれないが」
「それも多分ぇだろ、最悪頭部あたま壊れそうだし」

 お互いに苦笑いした。
 最後に「まさかな」と同時に言った。




 ……実際、本当にこの通りになる事は無いだろう。
 ただし……遭難しないとは……限らないかもしれないが。