Eno.115 ハイド・スキン

それから

 
――――都市に戻ってからまず初めに行ったのは、痕跡と経歴の削除だった。
既に幾らかの経歴はクソ技術者によって適当にされているが、別途必要だと判断したのがある。
下層の蛆が一介とは言え、足取りや個人を悟られるのは宜しくない。……縁切りだ。
やたらご執心な奴が居るのも鑑みた上で――最悪の場合は異能を行使してでもやる価値がそこにある。
自分も水場泥棒に乗じてあの船から金貨や宝石を幾らか持ち出したが、直ぐに換金やらへ持ち込むことも無かった。
保身のためだ。同時期に消えた奴らが同時期に金の種を持ち込むとか怪しすぎる。

そうじゃなくともアイツらと鉢合わせるなんか御免だ。
暫く留守にしている間に根城は荒らされまくったから引っ越しついでに
ドンドンドンドンドン!!!           がしゃん。


「――お邪魔しまあす! お久しぶりですねスキンさん。
お元気でしたか? おや、顔色が……よく見えませんね。そんなもの外しましょうよ!
ああいえ、大きな用はありませんよ? ただ最近貴方の足取りが掴めなかったので追い掛けちゃいました!
所詮は唯の蛆虫だったのによくも私たちの目を搔い潜りましたね? お散歩は楽しかったですか? どこに行っちゃったのかとそれは心配で……」
「え? だって自分の物は大切に保管するべきでしょう?
勝手に壊れたら悲しい事ですけど、貴方だって大切な6期生の人なんですから。
その生きざまにははなまるを描いてあげましょうね。
さて、それでは近況の話でも聞かせてくださいね。遠慮は要りませんよ?
話しにくかったら二人きりになりましょう、今度は実験用ではなく尋問処刑用の椅子を用意して」

「――『正体不明』」



「……」
「あれ? こんな汚い所でなにしてたんでしたっけ。
えーと確かに誰かと話をしていたような気がするんですが……デジャビュでしょうか? それとも誰かさんにしてやられちゃいましたかね」
「うーん、思い出せません……おや、これは」

「設計図? 一体何の?」



……ふざけるなよ。本気でそう思った。
契約延長も延滞も私はお断りだからな。性急に発信機か何かの調査もしなくちゃならなくなった。ふざけんな。

死ぬほど頭が痛い。異能の力に秀でていない人工異能では物質的な干渉が精々、対人能力ともなると
こうして障害反動が尋常ではなくなってしまう。が、良い。
兎に角私という存在を都市から消す必要があった、兎にも角にもだ。
これであのクソ技術者が私を失う為なら何でもしてやるさ。その結果、奴が船と海、外界に夢中になっても。


私はまだしぶとくも息をしている。……できる限り楽に死にたいものだ。
さもなくば、殺しに行かなきゃあなくなるし。