水底の記録2
水を掻く事を諦め、記録を残しながら沈んでいく
推測するに、噴火により氷が砕け
氷の中に眠っていた未観測の湖に落ちたものと推測された
今頃、火山が被っていた氷帽の一部は溶けて濁流となり麓を襲っている頃か
他人事のようにそう思考していると不意に声が聞こえた
深い水底で聞こえるはずもない女性の声
いよいよ幻聴が聞こえたかと無視する
二言、三言と声がかかる
幻聴をかき消すようにヘッドライトを灯す
ライトが照らすのは濁った水の中で何事も無いように存在していた一人の女性だった
のんびりとした声で私に語りかけて来るその女性は
まだ息がある自分に興味があったらしい
現在の状況や私の現状に対する質問に答えると
慈悲があるのか無いのか判断のつかないような態度で「大変だったわね」と答えた
試しにこちらからの質問を投げかける
すると口元に笑みを浮かべながら回答を口にした
その笑みは優しさを感じさせるが、どこか根本的に優しさとは異なる印象を受けた
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簡単にやり取りを要約する
・彼女はこの火山の意識そのものらしく
全ての火山には彼女のような存在を持っており、全員が役割を持って火山活動をしている
・彼女の役割は噴火によって知識や経験を集めるというもの。
彼女は笑顔で語っていたが、噴火によって引き起こされた災害全てによって失われる営みの記憶、経験など全てが彼女の元に集まるらしい。
どうやら、私も近い内にその集合知の一部となるのだろう
・収集した知識や経験は彼女よりも上位の存在。彼女は星そのものと表現していたモノへと還元されるらしい。
あらゆる方法で星が自らの表面に寄生した生物を監視する機構があるようだ。
ある時には星の繁栄のため、進化の引き金を。また星へ不利益となる生物や現れる際には絶滅への引き金を。
星はそのような引き金を引くものらしい。
・彼女自身への質問を行ってみる。
「彼女は我々人類をどう思っているのか?」
答えはすぐに返ってくる
「人類は好きですよ~。」
詳しく書き記す時間が惜しいが、支配種族として大きな顔をしていて可愛い、自然のことや星のことを知ろうとしてすり寄ってきてるみたいで可愛い
………彼女の笑みから感じ取ることが出来る感情の正体を知る。
彼女、彼女たちにとって星に生きる人類など愛玩動物か、それにも満たない生き物という扱いなのだろう。
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長いようで短いやりとりをしている中で不快なアラートが防具の中に響く。
どうやら、まもなく最後の時が来るようだ。
私がこのような記録を付けていることを彼女は知っているのだろうか
今知らないとしても後々には知ることになるのだろうが
万が一にこの記録を読むことが出来た人類へ
私は自然の脅威の奥にある存在と邂逅した。
しかし自然への探求や干渉を諦めろと言いたいわけではない
人類がいつかこのような存在へ対して対等な立場を取れるその時まで、どうか彼女たちや星の機嫌を損ねないよう
どうか最新の注意を払って欲しい。
過去に繁栄し、滅びた生物たちの歴史を繰り返すことが無いように。
記録終了