Eno.22 ニコラス・シェリー

帰ろう

船の上での時間はあっというまに過ぎてしまった。
僕はまた、あの騒がしい現実に帰っていく。

「……みんな帰っていくんだな。
 それぞれの現実が、みんなのことを待っているんだ。」


「僕を怖がる人も笑う人もいなかったのは、
 このシマと海が現実じゃなかったからなのかもしれない。」


「でもねぇ、現実じゃなくても、夢でもないってことはわかるんだ。
 だってこの手にはいろいろなものが残っているし……」


たとえば、思いもよらない長生きをしているラム酒とか、
ゼロから無人島で作られた表彰状とか、
エメラルド……かわからないけど、緑の宝石とか。
ここを出てしまったら二度と食べられないお肉とか、エビとか……

あーいままで食べた無人島メシが僕の体を作ってる。
そう思うと不思議になる。

「無人島で生まれた細胞が、
 しばらく僕と一緒に居るんだな。」


「僕の世界では誰も知り得ない、僕だけが知っている時間が
 僕の体を形作っているんだ。」


誰も知らないシマと海の、誰も知らない時間を、
いずれ誰かと共有する日がくるんだろうか?

「いずれこの思い出を分かち合う時がくるなら、
 大事な人とだといいなぁ。」



「僕の世界に未来があるのか、僕はちょっと自信がないけれど……」


「その日がどんなに近くても、遠くても、
 最後まで持っておきたいな、ここの思い出は……」



もぞ……


「あ、動いたぁ!
 ということは、もう元の世界は近いんだなぁ。」


「よし、忘れ物な~い。
 お家に帰るところまでが遭難だね!
 油断せずに帰ろうねぇ!✿」


明日からのことは、たぶん大丈夫だろう。
なにせ、知らない人と一緒に7日も生きられたのだから。
ここの日のことは、僕の細胞を形作る思い出のことは、
自信にして生きていたい。

「また会いたいなぁ、みんなとは……
 元気で健康で、しあわせでいてね。」


またねぇ~!✿✿