【終 再び迎い来る日常へ】
【終 再び迎い来る日常へ】
◇
気付いたら少女は、見覚えのある場所にいた。
休暇地とされている海辺ではなく、
魔局のいつもの場所、“ジェミニ”の部屋に。
「──エリィ!」
大きな声がした。
振り向かなくても分かっている。
そこに、片割れがいる。
「…………ただいま」
背負子にいっぱいの宝物を入れて、
アスエリオ・リーヴァンロッドは帰還する。
その身体を、
「……っと、メリィ……?」
「…………心配、したんだからっ」
イルメリアが、ぎゅっと強く抱きしめる。
「エリィの消えた場所について見当はついてた。
私の宝石の光も消えてなかった。
でも……でも……っ」
「…………ボクは、ここに、いるよ」
だから、大丈夫、と抱きしめ返す。
背負子を示す。前に語ったあのシマに行った証拠だ。
中に詰められているのは、
お茶菓子の缶やフレンチトーストのバスケット、
作りすぎたフラワーティーなど。
「……ボクは簡単には死なない。
ボクが“ジェミニ”で一番強いのは……
メリィがよく知ってるでしょ……」
「……でもエリィは強いからこそ、
誰よりも先に逝くんじゃないの」
「…………」
アスエリオはぷいと目を逸らす。
改造人間、能力と代償。
アスエリオの魔弾は確かにとても強大な能力だが、
彼女の背負う代償は──
「……ならしばらく、海辺には行かない……。
出来るだけメリィと一緒にいるよ……。
それとボクの命の灯……
そう簡単に、消えるものじゃないから」
舐めないでよね、と光のない紫の瞳が強く輝いた。
さて、とアスエリオは身体を離す。
背負子を地面に置いた。
「……報告書を書きに行ってくる。
魔局長に説明をしなくてはね……」
過度に心配されるのは好きじゃない。
元気だよと示すよう身軽に、
魔局長の部屋を目指して駆け出した。
アスエリオ・リーヴァンロッドは成功作。
多少のミスや異世界冒険ぐらい、
魔局長はきっと許してくれるさ。
アスエリオのように優秀な存在を、
魔局は些細なミスで手放しはしない。
◇
報告書を書き終え、いつもの部屋に戻れば
イルメリア以外の仲間たちも揃っていた。
仲間たちと色々と話し、お土産を分け合って。
その次の日から、少女は再び戦場へと駆り出される。
「……刻紋弾装填……魔力解放……狙うの、は」
国境を超えて来た敵国の斥候がいる。
けれどアスエリオは、姉から言われた言葉を思い出して。
「……違う、こんな程度の奴らに
ボクの寿命なんてくれてなるものか。
こんなの……」
銃を仕舞って、疾走。
ふたりの斥候の前に躍り出て、
刹那のうちに閃かせるナイフ。
返り血を避けるかのようにひらり避け、ふたりを制圧。
「……能力を使わなくても良い、戦い方を」
模索してみよう。
これからも、生きていく為に。
また次にあちらの世界へ行くことがあったとして、
その時に生きて笑っていられるように──。