Eno.49 アスエリオ

【終 再び迎い来る日常へ】


【終 再び迎い来る日常へ】

  ◇

 気付いたら少女は、見覚えのある場所にいた。
 休暇地とされている海辺ではなく、
 魔局のいつもの場所、“ジェミニ”の部屋に。

「──エリィ!」

 大きな声がした。
 振り向かなくても分かっている。
 そこに、片割れがいる。

「…………ただいま」

 背負子にいっぱいの宝物を入れて、
 アスエリオ・リーヴァンロッドは帰還する。
 その身体を、

「……っと、メリィ……?」
「…………心配、したんだからっ」

 イルメリアが、ぎゅっと強く抱きしめる。

「エリィの消えた場所について見当はついてた。
 私の宝石の光も消えてなかった。
 でも……でも……っ」
「…………ボクは、ここに、いるよ」

 だから、大丈夫、と抱きしめ返す。

 背負子を示す。前に語ったあのシマに行った証拠だ。

 中に詰められているのは、
 お茶菓子の缶やフレンチトーストのバスケット、
 作りすぎたフラワーティーなど。

「……ボクは簡単には死なない。
 ボクが“ジェミニ”で一番強いのは……
 メリィがよく知ってるでしょ……」
「……でもエリィは強いからこそ、
 誰よりも先に逝くんじゃないの」
「…………」

 アスエリオはぷいと目を逸らす。
 改造人間、能力と代償。
 アスエリオの魔弾は確かにとても強大な能力だが、
 彼女の背負う代償それは──

「……ならしばらく、海辺には行かない……。
 出来るだけメリィと一緒にいるよ……。
 それとボクの命の灯……
 そう簡単に、消えるものじゃないから」

 舐めないでよね、と光のない紫の瞳が強く輝いた。

 さて、とアスエリオは身体を離す。
 背負子を地面に置いた。

「……報告書を書きに行ってくる。
 魔局長に説明をしなくてはね……」

 過度に心配されるのは好きじゃない。
 元気だよと示すよう身軽に、
 魔局長の部屋を目指して駆け出した。

 アスエリオ・リーヴァンロッドは成功作。
 多少のミスや異世界冒険ぐらい、
 魔局長はきっと許してくれるさ。

 アスエリオのように優秀な存在を、
 魔局は些細なミスで手放しはしない。

  ◇

 報告書を書き終え、いつもの部屋に戻れば
 イルメリア以外の仲間たちも揃っていた。
 仲間たちと色々と話し、お土産を分け合って。
 その次の日から、少女は再び戦場へと駆り出される。

「……刻紋弾装填……魔力解放……狙うの、は」

 国境を超えて来た敵国の斥候がいる。
 けれどアスエリオは、姉から言われた言葉を思い出して。

「……違う、こんな程度の奴らに
 ボクの寿命いのちなんてくれてなるものか。
 こんなの……」

 銃を仕舞って、疾走。
 ふたりの斥候の前に躍り出て、
 刹那のうちに閃かせるナイフ。
 返り血を避けるかのようにひらり避け、ふたりを制圧。

「……能力を使わなくても良い、戦い方を」

 模索してみよう。
 これからも、生きていく為に。

 また次にあちらの世界へ行くことがあったとして、
 その時に生きて笑っていられるように──。