Eno.85 牡丹

思い出に咲く花

ふ、と。意識が浮上する。
見慣れた景色、けれど久し振りな気もする世界。

『あぁ…帰って来たんだ』

視線を横に向ける。
見えた荷物は、紛れもなくあの島で手に入れた物ばかり。
青い勿忘草、黒い包帯。
それに手を伸ばし、そっと抱き締める。

『離れていても仲間友達だからね』

優しい風が吹く。赤い髪を揺らす。
自然達がおかえりと告げてくれる。

『ただいま、皆。
シャオとか他の精達は怒ってなかった?
…大丈夫?そっか…なら良いんだけど…』

たった一週間居なくとも、精霊達にとっては大した時間ではない。
だから誰も心配しなかったのかな。
…友人達なら、きっと心配してくれるんだろう。

『私ね、とっても個性的な人達と友達になったんだよ。
お話聞いてくれる?
あのね……』

暖かな日差しを浴びながら、詠うように、言葉を紡ぐ。
それはとても朗らかで、春に開く花のよう。

牡丹の花は楽し気に揺れる。
風に運ばれる香りは甘やかに。

別世界に帰った友人達へ、届いていると良いな。