Eno.356 舟渡しのスティラムス

【最終章】偉業の島 偉業の者達

救助船に乗り込んだ際に不調の様子だった者が、
今は回復している様子で一安心した。
これで救助船に乗り込んだ者達は、皆息災な様子で帰れるであろう。

船は広大な海を引き続き進んでいる。潮風が頬を撫でる。
あの時ほどの賑やかさではないが…
思い思いに過ごす一時というのは…あの島でも度々あったな。
…そろそろ、吾輩も含め、島で過ごした者達は、
それぞれ元々過ごした地へと帰還するのであろうな。

初めあの島に流れ着いた時は…何処だか分らぬ海辺であるし…
周囲を見渡せば、元より居た地では見かけぬ様な…
吾輩からすれば御伽噺の人物の様な…見知らぬ者達ばかりではあるし…
正直、心細いという気持ちは多かった。
だが…共に過ごす事で…この者達もまた。
幻想の容姿とはいえ…吾輩と同じく当たり前のように生きて、
当たり前のように時を過ごす者達なのだと強く実感できたのだから。
過ごしていくうちに、不思議と…心細さは薄れ、
次第に打ち解けていく事が出来た。
…心細いと思っていた事が、懐かしく思える。
今となってはこの者達も、吾輩にとって大切な友だと思える。
友という存在のかけがえの無さを、改めて知る事が出来た気がする。

ヴェルヴェから写真を受け取った。
写真を眺めれば、島での生活で感じた様々な感情が起き上がってきたような気がする。
また一つ、良き思い出を持ち帰る事が出来そうだ。

それぞれ元より居た地に帰れば、長いような、短いような。
そんな時を共に過ごしたこの者達と別れるという事になる。
やはり、寂しいという気持ちはある。
だが、こうして吾輩達が出会ったという出来事が起こったのだ。
もしかすればまた違った形で再開という出来事もあるのであろうと吾輩は信じよう。
だから、別れの言葉らしい言葉は吾輩は言わぬ。
縁があればまた会おう、と。その様な言葉で良いと思う。
次にこの者達と出会う事があれば、吾輩も舟渡しとして、
舟に乗り、櫂を持った姿で出会いたいものである。

…真に、本当に世話になった。そして、大切な思い出をありがとう。

偉業島よ。幾つもの偉業を残した者達よ。
形はどうであれ、どうか、主たちにとって良い道が進める様に願おう。
縁があれば、また会おう。