Eno.599 森野賢人

心に刻んだ言葉

最初の注意書きを、手頃な木にオガム文字で刻んだ。
しかしこれは私にしか通じず、記録する文字として不完全だ。

過去、我々の祖先が人間社会で生きる事を選択した理由が見えたと思う。
ただ樹木と獣の集まりを自然と捉える狭い視野ではドルイドという存在、その目的を失うだろう。
大事なのはドルイドではない、自然と人の調和だ。人と自然の変化が流動的であると学ばなければ、これから先、人も自然も未来はない。


――私は森野賢人。青山に住む高校生でありドルイド。
この名もなき島において、皆と同じく大自然に晒され惑う者の一人。

この経験で私は学んだ、皆自然に抗い生きようとする意志の強さ。
そしてそのために森を開かねばならぬという選択を。
それは拡大解釈するのならば、自然破壊だろう。しかし、人が自然を食らって生きているとするのならば、これもまた自然のサイクルだ。
そう、人は自然の外であるという考えそのものが傲慢であり勘違いだ。
必要なのは、生きるという事。そして生き続けるために開いた自然に敬意を忘れず続かせる事だ。
それを皆――かは分からないが、少なくともミミクリやカナイは抱いてくれたようだ。

私はそれを嬉しく思う。そして、今後それを伝えていかねばとも思う。
それは古く閉鎖的なドルイドではなく、”今”のドルイドとして。

……学校へ戻るのが待ち遠しい。そのための知識が、そこにあるに違いない。直接ではなくとも、そこへつながるものが。
そうして知識も巡り、自然との共存を目指す、それがこれから私がやるべきことだ。