Eno.659 疾風刀

花波シオンの記録【9】

 ……って書いちゃったけど、題名タイトルくらいは揃えた方が良いよな?
 肝心の本人が船の甲板に突っ伏したまま動かなくなっちまったからよ~。

 時々呻き声を上げてるから死んでねぇのは間違いぇんだけど、恥ずかしい秘密を暴露されちまった後レイワに言われた事が痛恨の一撃になったクリティカルヒットしたっぽい。

 しばらくあのままだと思うし、今はそっとしとこ。

「そういえばさ、無人島サバイバル、実際どうだったのよ? 能力ちからがほとんど封じられてたっつったらしいけど」

 俺は気になってた事を、単刀直入に刀に聞いてみた。
 刀はいつものように、笑みを浮かべたまま答えた。

『面白かったぞ。ああいう状況を、大ピンチと呼ぶのだろう? そんな中で、次々と打開策を打ち出していくのは、ああ、本当に楽しかった』

 あー、うん、シオンが言った通り心配するだけ無駄かもしんねぇわコレ。
 でも裏を返せば、そんだけ安心感が強いって事だよなぁ。
 こいつが居たら何とかなる気がする。そう思わせるのって実は凄い事で……。

「本当に、どんな状況でも楽しむんだな……人間の心理を知れる良い機会だってか?」
『うむ。我だけが流れ着いたのは残念だったがな。おかげで、必要なモノは全て自分でやらざるを得なかった』
「大変そう……でもその分、他のひとに食料や飲み水を遠慮しないで摂取できるから、そこは良いかも……って、いややっぱおかしすぎるわ! 色々と!」
『ノリツッコミのキレが良いな、サバイバー』

 刀に笑われたけど、初めての遭難にしちゃあちょっとは効率良く動けてるの、よく考えなくてもヤバくね? こわ。
 しかも見た感じその身ひとつで遭難したっぽいし、それで浮桟橋作ったり荷車作ってるとこがヤベェよ……。

 もし俺が刀だったら、一人無人島サバイバルを完遂できたかなぁ。
 いや、多分完遂自体はできる気がするけど、刀みてぇに手際良くはできねぇ気がする。
 やっぱ、完全すぎるんだよなぁ。まぁ神様じゃねぇから、流石にいくらか失敗もしてそうだけど。

『さて、港が見えてきたぞ。其処の少女も起こすが良い。冒険者の宿へ帰るのだろう?』

 刀に言われて、船の上の光景に目を向けると、確かにやっと港が見えてきた。
 横に並走したままじゃ停められねぇから、今度は縦一列になるように救助船が動く。
 後はレイワとディーマが先に順番に降りるだろうし、俺がシオンを起こすとすっかな。

「シオーン! もうすぐ終点だぞ~!!」




[……代筆:サバイバー・カーレッジ]