Eno.528 わしししょう

ししょうにただいまをいうわし

かつん かつん。
救助船から大きめのわしが降りていきます。

ふりかえり、ばさりと羽をふって船を見送ったら、海辺の旅館へ。
もともと泊まっていた場所です。わしは、ひとり旅をしていました。

「この冒険は、旅の区切りに丁度良いかもしれんの」

荷物をまとめてチェックアウトしたら、携帯端末を、ぴ、ぽ、ぱ。
すると、空からお迎えが飛んできます。送迎用ドローンです。

もともと持っていた荷物と、島でつくったそりをくくりつけ、
わし専用座席にすっぽりおさまり、シートベルトもしっかりしたら。

ごごごごご。
ハイテク機械で、空へと飛びたつのです。
わしの帰るおうちは、空に浮かぶ、ハイテク研究所でした。


「おまえどこをほっつき歩いとったんじゃ。
 しばらく発信機の反応が消えとったんだぞ」

おうちへ帰るなり、白衣の人物ががなりたてます。
それに対してわしは、むんと胸をはって返します。

「聞いて驚け師匠……なんと、遭難をしていたのじゃ!」

「ハァ~~~? どういうことじゃぁ」

「ワシにも実に不思議な体験じゃった……」

「ひたっておらんでワシにわかるよう説明せぃ!」

「せっかちはいかんぞ師匠。じっくり最初から話さねばのぉ」

「それにいつの間に帽子を新調した! ワシの帽子はどうした!」

「それもおいおい、じゃ。師匠の帽子も持っとるから安心しとくれ」

ワシワシじゃぁじゃぁうるせぇ空間です。
どちらがどちらの言葉かわかりません。
けれど、べつによいのです。

「なんにせよ、おかえりじゃ、ワシ」

「ウム! ただいまなのじゃ、師匠」

当人たちは、わかっているのですから。


そして、波にさらわれ流れ着いた島での、幸運な出会い。そのさきに。

「友人ができたのじゃ!」


羽をひろげ、誇らしげな笑顔で、そう報告するわしの姿がありました。



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わしししょう
十年ほど前に手術を施され、改造鳥類となった喋る鷲。つけられた名前は「ワシ」
情操教育で読み聞かされた漫画で「師匠キャラクターは格好いい!」となり、師匠を自称するようになった。
師匠修行の旅をたびたびしており、出先で見つけためずらしいものを研究所に持ち帰ったりしている。

師匠
死にかけの鷲を拾って改造を施したバッドな科学者。鷲からは「師匠」と呼ばれている。
倫理的にとやかく言われがちな研究をしていることもあり、空飛ぶ研究所で人目を避けて暮らしている。
鷲にせがまれて、一番良いフォトフレームを買うため久しぶりに地上に降りることになった。