Eno.659 疾風刀

花波シオンの記録【終】

 無事に元の世界、そして【虹のはじまり亭】に帰還し、今回の依頼の報告をし終えた私たちは、各々で休暇を取る事にした。

 宿の亭主は沈痛な面持ちで私たちを労い、快く承諾してくれた。

 その後、サバイバーは早速ディーマを連れてステーキを食べに行った。
 ゲイルブレイドは疾風刀として、日帰り温泉に出かけて行った。

 私は……自分の部屋でくってりしていた。
 お風呂とか温泉に入って身体を綺麗にしなきゃなのに、面倒くさい。
 入らなかったら潮風のニオイが悪化するのに、全く気分が乗らない。
 戦いは無かったはずなのだけれど、自分が思っていた以上に気疲れしちゃったみたい……。

「はぁ……」

 溜め息ばかり出る。
 これで何回目だったかしら。

「溜め息を吐くと幸せが逃げると言うが、果たして本当なのだろうか」

 そう言いながら、私の様子を見にレイワが来た。

「あー、レイワ……ごめんなさいね、今気力が無くなってて……」
「疲れているならば、いっそ全てを諦めて寝てしまっても良いと思うが。例えば洗濯とか……」
「……そうしようかしら。たまには良いわよね、一日くらいは」

 その一日がシャレにならない事もたまにあるけど、今回は大丈夫だと信じたい。信じる事にする。

 話がまとまったところで、レイワが刀の事を話題に出してきた。

「本当に不思議な魔剣だな、彼は」

 まぁね、喋る剣自体はたまに聞いたりするけど、人間に興味を持って、人間の姿を取れるようになるまで深入りしてくるのはほとんど聞かないわね。

「変な魔剣よ」

 思った感想をそのまま出す。
 間違いない。これだけは自信を以て言える。

「でもま、悪い魔剣ではない……と思う、多分」

 その次に、私の願望を出した。
 実際のところは分からない。
 より面白そうな事柄があれば、そちらに流れ付き、また私に牙を剥いてくるかもしれない。
 そんな事は無いと思いたいのだけれど、実際やりそうだから困る。

「確かに、未だによく分からないな。気まぐれで、何を考えているのか、ワタシをしても読み取れない」

 レイワも、刀……ゲイルブレイドの気まぐれさについては警戒しているみたい。

「が、まぁ。今、敵意が無い事だけは分かる。オマエを気に入っているという事は、本当なのだろう」

 あら。そうも感じたのは意外ね。
 まぁ敵意があったら、私が居てもお構いなしに誰かを切り刻んでたかもしれないし、あながち間違ってもないのかな。

「そりゃそうでしょ」

 私を気に入っている、の方については肯定した。

「五回も出遭ったんですもの。他にも個体が居るはずなのに、毎回同じ個体と出遭ったんだから。それが偶然である確率なんて、ほぼ無いに等しいわ」

 と言うかこんな事で貴重な運を使いたくない。
 もっと幸せな事に運を使いたい。あいつに吸われるのはごめんよ。

 でも……あいつの長い人生……剣生? が楽しくなったっていうのなら、何度も出遭って言葉を交わした甲斐はあったのかもしれない。

 そう納得すると、急に眠気が……。

「……ふわぁ……眠くなってきちゃった」
「寝てしまえ。身体は起きてすぐにでも洗えば良い」
「うん、おやすみ、レイワ」
「ああ、おやすみ、シオン」

 寝る私のために、レイワは部屋を後にした。

 亭主には本当に悪いけど、一旦寝させてもらうわね。

 おやすみなさい。




[……記録者:花波シオン]

疾風刀ゲイルブレイドのシマナガサレソロプレイ ~ Fin.】