Eno.17 明けぬ夜の灯台守

おわり


君たちはハワイという楽園にたどり着いたのかもしれないが、彼は船から降りていた。
船から降りたつもりはなかったが、まあ、目を覚ませばサングラスなど必要もないそこだったのだろう。

こんばんは私の世界。
私の世界は常闇に閉ざされている。
彼の夜には星はない。
彼の目にしか星はない。

時折いく船は遥か遠くにあり、かすかに見えるその光を見上げていた。
そのうち、そばにある灯台がチカチカとそれらを照らして、その微かもかき消してしまったのだけど。

退屈そうにあくびをしている。
もらったものは換金できないから、しまっておく他ない。
そしてやっぱり、指輪の宝石の輝きは見えなかった。

彼の目の星だけが、そこで輝いている。

夜の中を見渡せるのだから指輪の色だって見えるのに?
見ないようにしている。
冷たい空気だけを吸っている。
牢獄には不要な色だった。



冤罪をふっかけられてこんな土地だった。
兄弟には自分が思う以上に恨まれていた。
別にいいけどね。
兄として何かやれたわけでもない。鼻につくこともあったのだろうな。
別にひっくり返そうと思えばいくらでもひっくり返せたのだけど、それはすんなりと罪を認める、ふりをした。
だから初めのうちは手紙を送っていた。
家族と、弟とか、友人とか。


この土地と本星の時間がずいぶんと遠いことを知るのはすぐだった。


そうしてつまらなくなっている。
何の幸福を祈ることもできなかった。
灯台守というのが偶然空いたからなされた刑期で運がない。
遥か故郷の星はもはや工業星になってるのかもなあ。
なんて、想像をしたところで浦島太郎。
時代遅れの灯台守。




──靴を鳴らして星を歩く。
半日もすれば回りきれてしまうような小さな星で、どうやら自分は一生を終えるらしい。
あと何日か。
あと何年か。
何でもいいけど、君たちとは時間も距離も離れてしまった。

星の中に飼っている、たまに落ちてくる衛星の知識と言葉を見ることだけが趣味になってしまってたまらない。


そんなこと言ったって、終わりの話だった。
偶然波止場から落っこちた。
もう落ちないように気をつける。
あとは変わらぬ時間がそこにある。


──朝は訪れない。
訪れても、目を開けられないのだから夜のまま。



次の日は来ないのだろう。