Eno.652 クライル

(追)思わぬ贈りもの

今はこうして島を出て、船の上に居る。

だけど少し前、僕はムーに呼ばれ、聞かれた。


ミオの事好きなの…?


僕もこれには流石に狼狽えた。

まるで、心中を見透かされたように思えたから。


更にムーは、一つ言い当てた。

僕が、ミオが花火を打ち上げた時。
何故、涙を流していたのかを。



「島でミオが打ち上げた花火の時に、何となくね。
それにミオを眺めている目が…寂しそうに見えたんだ。
『どうして僕じゃないんだろう』…みたいな?」



理由は4つあったけど、その一つを見事に言い当てられた。

やっぱり重ねた年の数が違うから、なんだろうか。

ムーには、隠し事は出来ない。

そう思った僕は、観念して彼女に残りの理由を教えた。

『ミオが生きててくれて良かった』って事。

『ミオも、この島で成長したんだ』って事。

そして、『僕では、彼女に愛を教える事が出来ないんだ』って事。


悔しいけど、僕ではリシアンサスみたいに当たり前の愛を教える事は、出来そうにない。

僕は確かにミオに好意を抱いてはいるけど、今はそれを伝える事は出来ない。

理解し得ない概念をぶつけられても、困惑させるだけだから。

だとしたら、それを理解出来るまで待つしかない。

ずっと気付かなければ、それはそれで仕方がない。

この想いを秘めたまま伝えず、寄り添うだけだ。


それを簡単に伝えたらムーは、ちょっとしたアドバイスと共に、僕に牡丹の花をくれた。

花自体が、ムーとの連絡手段になるらしい。

これで、話をする事も出来るんだって。


正直、思わぬ話し相手が出来てホッとしている。

想いを伝えられないもどかしさを紛らわす事が出来るのは、僕としても有り難い。

彼女には、素直に感謝を伝えておいた。


ありがとう、ムー。



僕は、あの離島で手にした鮮やかな花――調べてみたら、イキシアと言う花だった――の言葉ひめたこいを胸に、ムーのくれた牡丹の花せいじつで以て、リシアンサスと共にミオに寄り添って行こう。